島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY




――彼女は、爆弾のスイッチを握っている。




  *   *   *




「……え、ええと、それで私はその……聖杯戦争というものに巻き込まれた、っていうことでいいんですよね……」
「ええ、そういうことになります」

ムーンセルという超常の存在は現代東京のありとあらゆるものを模倣した。
街を往く人々、雑多な建物の数々……無数のオブジェクトをそれこそ塵一つすら完璧に再現していた。
その内の一つであるチェーン店のコーヒーショップに一組の男女の姿があった。
年の頃はどちらも10代の中頃。
一見仲睦まじいカップルのようだが2人の間にいわゆる甘い空気はなく、特に少女の方は今にも倒れそうなほどに顔を青ざめさせている。

「……そ、その……でも……信じないわけにもいかないですよね……」

少女――島村卯月は震える手で目の前のアイスコーヒーを手にとった。

卯月の記憶はある瞬間を境に断絶している。
いつもどおり事務所でレッスンをこなした帰り道、彼女は何の気なしに夜空を見上げ、――そして血のように紅い月を目撃したその瞬間、彼女の世界はまるでドラマや映画のように唐突に切り替わった。

先ほどまで夜だったにも関わらず上空には燦々と太陽が輝き、周囲もいつの間にか人通りの多い大通りへと変化していた。
レッスンで疲れすぎて夢でも見ているのだろうか……最初はそう思ったが夢にしては周囲の様子はあまりにもリアル過ぎた。
更にその混乱に拍車をかけたのが、今現在対面に座っている赤毛の少年である。
彼は自身のことを"ライダー"と名乗り、卯月のことを"聖杯戦争のマスター"だと告げたのだ。


……当然のことながら卯月の混乱は更に加速した。
なにせ卯月は平和な世界に生きていたのだ。
いきなりサーヴァントや聖杯戦争といった単語を出されても『はいそうですか』と理解できるはずもない。
精々が『いつかはそういうTV番組や映画に出るのかな』と想像していたくらいだ。
だからこれも最初は何かのトリックで、ドッキリのようなものだと疑ってかかったのだ。

だがそんな卯月に対しライダーは証拠と言わんばかりに彼女を抱えたままビルからビルへと跳躍した。
宙に浮く感覚や風をきる感触はあまりにも現実的で、しかし起こっている状況はあまりにも非現実的で、彼が人間でないことを理解するのには十分であった。
だがそれを認めるということは彼の言葉を信じるということだ。
つまり、ここが本物の東京ではなく、更に言うならば聖杯戦争――マスターたちが望みを賭けて行われる殺し合いの舞台だということを――

そして混乱する頭を落ち着かせるために適当な店で腰を落ち着け……そして現在に至る、という顛末である。

「それでこれからのことですが……まずは今後マスターがどうするかを決めたほうがいいと思います。
 お聞きしますがマスターには何か"望み"はないのですか?」
「それは……あるにはありますけど……その……聖杯に望むものじゃないかなーって……」

"トップアイドルになる"という願いはあるが、あくまでそれは自分の手で叶えるものだ。
それに当たり前の話だが……それは決して人を殺してまで求めるものではない。
と、そこで卯月はライダーの話の違和感に気づく。

「あれ……でもさっきの説明だとライダーさんにも"望み"があるんですよね?」

だとしたらこの少年はその望みのために……人を殺すのだろうか。
その考えに至った卯月の背中を冷たい汗が伝った。
だがそれに対するライダーの返答は意外なものだった。

「……いえ、僕には聖杯にかける望みはありません。そういうサーヴァントなんだと思ってください」
「え……?」

その返答事態も意外なものだったが、何よりもライダーの態度に卯月は違和感を感じた。
今まで自分の質問に対し流暢に説明してくれていたライダーが一瞬戸惑ったように見えたのだ。
だがライダーはそのことについて追求しようとするよりも早く言葉を繋ぐ。

「……ああ、望みがないからといって心配しなくてもいいですよ。
 僕は全力であなたを守ります……サーヴァントとしてね」
「ふぇっ!?」

真正面から目を見て『君を守る』なんて、今どき少女漫画でも見ないシチュエーションだ。
そんな場合ではないとはわかっていても、どうにも照れくさくなって変な声を上げてしまう。
熱くなった頬をごまかすように卯月は立ち上がった。

「じゃ、じゃあとりあえず……その、協力できる人を探して元の世界に帰るって方針で行動しましょう!」
「マスター、それは危険です」

だが対するライダーは卯月の判断を否定する。

「ここはもう既に殺し合いの場所です。
 あなたにそういう気持ちがなかったとしても相手はきっとそうは思ってくれないでしょう。
 それよりも……協力できるなんて考えずに、どう生き残るかを探した方がいい」
「……それは、きっと違うと思います」

卯月は怯えながらも、まっすぐにライダーの目を見つめていた。
その目には先程までと違い、弱いながらも、確固たる意志があった。

「たった2人だけじゃ……そのきっと同しようもないことだって起きるって思うんです。
 でももっと沢山の人の支えがあればきっと……どんなことだって出来るって……その私は思うんです」

――島村卯月は色々な人に支えられている。

プロデューサーさんやちひろさん、凛ちゃんや未央ちゃんを初めとした事務所の仲間や仕事で出会う色んなスタッフ、それに両親や学校の友人……彼ら皆に支えられてアイドルをやっているのだ。
もちろんここが危ない場所で、世の中には悪い人間がたくさんいることも知っている。
でもそれを否定することは今までの島村卯月を否定するみたいでどうしても出来なかった。

「それに……その、本当に危ない時は……ライダーさんが私を守ってくれるんですよね?」

自分で言って少し芝居がかったセリフだったかな、と思い、また照れくさくなって少し頬を赤くする。

「ええ、前にも言いましたけど僕はあなたのサーヴァントですからね。
 ……わかりました。マスターがそう言うのであればその方針に従ってあなたを守ります」
「あ、ありがとうございます、ライダーさん!
 それじゃあ……島村卯月、頑張ります!」

笑顔を浮かべ、気合を入れなおす卯月。
それは今にも折れそうな自分を鼓舞するための必死の笑顔。
そう、落ち着いてきたとはいえ、未だ彼女は混乱の中にあった。
……だから気づくことが出来ない。
その笑顔を見たライダーの表情が僅かに歪んだのを。

   *   *   *


(……すまないマスター。だけど僕の願いを叶えるにはこうするしかないんだ)

ライダーは一つだけ嘘をついた。
それは彼に『確かな願いがない』という嘘だ。
それを彼女に伝えなかった理由は一つ。
"願いを伝えないこと"こそが、彼の望みに繋がるからだ。

――何故ならばライダーの望みは、"人類をもう一度試すこと"。

かつて生前のライダーが目にした人の本性は"悪"だった。
どんなに取り繕っていても窮地に陥れば保身に走り、他者を疑い、憎しみをぶつけあう醜い獣。それこそが人間の真実の姿だ。

『地球人に対するそんな考え方は捨てろ! 地球人は環境によって悪鬼に早変わりするんだ!』

一度は否定したかつての仲間の言葉にも、今ならば頷くことができる。
それほどまでにライダーの見た彼らは浅ましく、醜かった。

(――だが、それでは彼女は何だったのだ?)

ライダーの脳裏に浮かぶ黒髪のシルエット。
身元もわからない自分に親切にしてくれた彼女たちとは激しさを増す戦いの中で距離を取り、2度と巡りあうことはなかった。

『しかし驚いたな。よくこれだけ戦争をしていますね』
『そうね。昔は戦争ばかりしてたようね。でもそれは昔の話、今は違うわ。
 戦争というものがどれほどおろかな行為かみんな知ってるわ』
『それに残忍なことも平気でやっている』
『平気でやったのじゃなく、その人達が考え違いをしていたのよ。
 だからそれがわかった時、こうして非難をこめて書き記されているのよ』

かつて彼女と交わした会話がリフレインする。
わかっている。そんなのは上辺だけの、人類が長い歴史の中で続けてきた唯の言い訳にすぎない。
だが、だとしたら彼女たちの優しさもまたまやかしだったのだろうか。
最後の瞬間、彼女たちもまた浅ましい獣へと姿を変えたのだろうか……?

(……そうは、思いたくない)

それは心を埋め尽くす絶望の中で感じた、割り切れない何か。
全てを吹き飛ばした最後の瞬間、心の奥底に残ってしまった感傷。
だが決して無視できないそれはライダーの中でくすぶり続けていた。
だからこそライダーは聖杯に問うた。
『かつて地球を滅ぼした自分の行動は間違っていたのか』――その真実を。

(……そして僕はここに呼ばれた。ならば、そういうことなんだろう)

聖杯戦争という"窮地"において、目の前の少女がどのような決断を下すか。
それに出会うであろう他のマスターたちがどのような願いを抱いているか。
それらを通じて、人という生き物を再び見極める事……それこそが答えだと聖杯は判断した――この状況をライダーはそう解釈した。
故にライダーは自分の望みをマスターに伝えない。真実をより正確に見極めるために。

目の前の少女は特殊な生まれもなく、特殊な力も持たないどこにでもいる少女だ。
かつての『彼女』とはまったくタイプが違うが、同様の優しさを持っているように見える。
だからこそ彼女に判断を委ねることにライダーとしても異論はない。
この聖杯戦争の果てに待つのは"やはり"という諦観か、"もしかして"という希望か。

その思考を打ち切るように2人の間を一陣の風が駆けていく。
風に吹かれ、ライダーの燃えるような赤い長髪がなびく。
血のような、炎のような、火星(マーズ)のように真っ赤な髪が。



――彼女は、爆弾のスイッチを握っている。


【クラス】
 ライダー

【真名】
 マーズ@マーズ

【パラメーター】
 筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運E 宝具EX

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
  • 騎乗:D
 乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

【保有スキル】
  • 怪力:B
 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
 一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は「怪力のランク」による。

  • 神性(偽):C
 生前、神のような振る舞いをしたものが会得できるスキル。
「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果があるが、実際の神性よりも効果は劣る。
 かつて世界を滅ぼしたライダーは破壊神の一種として擬似的な神性を持ち合わせる。

  • 単独行動:B
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Bランクならば、マスターを失っても2日は現界可能。

  • 戦闘続行:B
 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 人造人間であるライダーは、高い戦闘続行能力を持つ。

  • 心眼(真):C
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 ライダーは戦闘経験こそ少ないものの、極めて高い学習能力を持ち、その能力を十全に活かすことができる。

【Weapon】
  • 人間離れした身体能力
 その腕力は岩を砕き、その足は疾風のように大地を駆けることができる。
 また髪の毛を硬質化させ、針のようにして飛ばすこともできる。

【宝具】
  • 軍神よ、光の力を振るえ(ガイアー)
 ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~300 最大補足:300
 ライダーの念波によって操縦される巨大ロボット。
 四肢はあるものの磁気を操ることで浮遊し、格闘戦を仕掛けることは滅多にない。
 だが特定の物体だけを引き寄せる引力光線、あらゆる攻撃を遮断するバリアー、一撃で物質を消滅させる光子弾と呼ばれるエネルギー弾を全方位に向けて発射可能であるなど、極めて高い戦闘能力を持っている。
 その戦闘能力は現行兵器では歯が立たず、同じ文明の六神体ですら一蹴するほど強大なものである。
 だがその強大さ故に魔力消費量も非常に大きくなっている。

  • 業火よ、裁きの日を呼べ(ガイアー)
 ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:∞ 最大補足:7,000,000,000
 "軍神よ、光の力を振るえ(ガイアー)"に内蔵された爆弾。
 アルティメットワンごと惑星を破壊する究極宝具にして全てを破壊する特攻宝具。
 星の加護を受けたものに対し、∞の追加ダメージを負わせる効果を持つ。
 ライダーはかつてこの宝具を発動させ、太陽系第三惑星を破壊した。
 ライダー自身の命が尽きる、すべての六神体を破壊する、ライダーの意志で発動させるなどの一定の条件を満たすと発動するが、救世主(セイヴァー)としての現界ではないため、この宝具は使用不可能である。

【人物背景】
人類の凶暴性を危惧した宇宙人が地球を破壊するために作った人造人間。
火山活動の影響で誤作動を起こし、予定よりも100年早く目覚めてしまう。
だが親切な親子と接触した彼は人類を絶滅させると言い放つ同胞に反旗を翻し、長い戦いの末にすべての六神体を撃破する。
しかしその直後に彼が見たのは互いに争い、血を流し合う醜い獣(にんげん)たちの姿だった。

「コレガ人間カ、ナントイウ醜イ姿ダ、自分ハ何故コンナ生物ヲ守ッテキタノダ」

人類に絶望したマーズはガイアーに内蔵された爆弾を発動させ、地球を破壊した。
そして物語は終局を迎える。
――しかしかつて彼が人を信じたのもまた真実の一片である。

なおかつて滅びによる救済を行ったため、エクストラクラス・救世主(セイヴァー)としてのクラス適性も持ち合わせる。
その場合は"業火よ、裁きの日を呼べ(ガイアー)"が常時使用可能であった。

【サーヴァントとしての願い】
人間が滅ぶべき存在かどうかをマスターを通じて見極める。




【マスター】
島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
直接的な願いはなし。
強いていうなら元の世界に帰りたい。

【weapon】
なし

【能力・技能】
  • アイドル
 ……が、アイドルとしてはまだまだ駆け出しもいいところ。
 ダンスや歌唱力などはまだまだ発展途上……ではあるが、アイドルとしての潜在能力は極めて高い。

【人物背景】
トップアイドルを目指す駆け出しアイドルの一人。
「頑張ります」が口癖で、どんな時でも明るい笑顔で憧れのトップアイドルを目指す普通の女の子。
……なのだが『努力する』という一点については普通以上のものを見せる。
またカードイラストも笑顔のものが多く、その笑顔には多くの人達に力を与えている。


-014:峯岸一哉&ライダー 投下順 -012:宇佐見蓮子&ライダー
-014:峯岸一哉&ライダー 時系列順 -012:宇佐見蓮子&ライダー


登場キャラ NEXT
島村卯月&ライダー(マーズ 000:DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命

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最終更新:2015年02月05日 02:28