Fate/Another Servant HeavensFeel 2 第30話

──────────────────────Another Servant    12日目 開かれる嘆きの蓋、そして……─────



──────Fighters Side──────


「………本日の分はこれでよしっと」
 そうして刻士は軽快に走らせていた筆を机に置いた。

 間桐とアーチャーとの戦いに勝利を収め、キーアイテムである聖杯の器までもを手中に収めた彼らはその日の行動を終了した。
 刻士は紙上のインクが乾くまでの待ち時間を利用して開幕から今日までの十数日間を振り返る。
 彼が残した聖杯戦争の記録はもう一ヶ月分位は溜まっただろうか。
 自分が見聞きしてきた第二次聖杯戦争の記録を日誌に残す。
 日記に記載した内容はそれこそ重要な事から些事まで何でも良いといった具合に多種多様な事柄が書き込まれていた。

 エクストラクラスについて。効率の良い睡眠が取れる魔薬の調合法。聖杯戦争における序盤、中盤、終盤の戦略の変化について。
 各クラスの持つ特性の危険度。アサシンクラスに注意。特にバーサーカークラスは要注意。
 知名度の低い英雄が大英雄をうち負かしたことについて。宝具について(重要)
 聖杯戦争で真名を秘匿する事の重大性。小聖杯について(重要)。なるべく栄養価の高い食事を取ること。闘王は紅茶党。
 前回の反省を生かし第二次から聖杯戦争システムに組み込まれた三つの令呪について。戦局を一変させる令呪の効力と絶大性。
 マスターの知恵と技量次第ではサーヴァントを媒介に不死性を得ることも理論上可能、実に興味深い。などなど。

 果たしてそれは何の為の記録だろう。
 この大儀式が見事成功し己が根源に到達した時に、こちらの世界に自分の存在の痕跡を残したいが為か?
 それとも万が一に敗北した際に次代の遠坂の子孫へ繋ぐ保険の為?
 その真意は刻士本人にもよくわからない。
 ただ冬木に聖杯戦争の予兆が現れたと同時になんとなしに遺書などを準備していた辺り彼の死地へ挑む覚悟の程が窺える。

 記憶を反芻していると深夜の死闘の際、打倒遠坂の執念に燃える間桐がつい洩らしてしまった言葉を思い出す。
 間桐燕二が体現していた神秘は探求者として非常に興味をそそられるものだった。
「……しかし昨夜の間桐の不死性は興味深かったな。アーチャーが死なない限り自分も死なない、か。
 あれは間桐本人の業ではないな。明らかに彼の能力を大幅に超えた奇跡。となればやはり臓硯翁の援助か?
 ふむ流石は御三家の一角マキリを統率する魔道翁の秘術。まだ不完全な形とは言え試作としては申し分ない出来に仕上げるとは。
 突き詰めていけばマスターとサーヴァントの命の共有を完全な形で実現できるやもしれないな。
 いや…あるいはそういう特殊能力を持つ英霊ならより確かな形として命の共有を実現できるか?
 そういった能力のサーヴァントと契約したマスターは相当な有利に立てる────うん悪くないね」
 魔術師の口元から誰に聞かせる訳でもない独り言が自然と漏れる。
 が、刻士は自分の口にしている台詞の意味に気付き自らを諌めた。

「────フ、馬鹿馬鹿しい。
 私とした事が無関係な話に熱を上げ過ぎたか。ファイター以上のサーヴァントなどまず考えられないだろうに」

 刻士は昨夜のファイターのとった行動を思い返す。
 己が窮地であろうと勝手な真似をしない英霊。あれほどマスターの都合を最優先に考えた忠実なサーヴァントなのだ。
 その上で実力までもが申し分ないときているのにたかが不死性を与える程度の能力に現《うつつ》を抜かすとはなんと愚かしい。
 自分の未熟さを苦笑し、遠坂は一度休眠を取って頭脳をスッキリさせることにした。
 無論、いつもの試薬を飲むのも忘れずに。



              ◇               ◇



 太陽が昇り、また一日が始まる。
 僅かな睡眠時間ながらも何の問題もない目覚め。
 刻士はいつものように目覚めの紅茶を朝日の光を肴にして優雅に愉しむと、次に栄養補給の為の朝食を済ませた。
 そしてその後はこれまたいつものようにファイターと一時のティータイムと洒落込むのだ。
 かくいうファイターもファイターで遠坂とのティータイムは楽しみなイベントになっているらしい。
 紅の雫の豊かな香りが王の鼻孔と口内に広がる度に僅かに頬を緩ませて、うむ、今日も素晴らしい味わいだ、と上機嫌に呟いていた。
 王や戦士としての風格こそ十分過ぎる程にあるファイターだが、元来彼の気性を想えばこの姿の方が素に近いのであろう。
 そうして、ささやかで穏やかな一時を愉しんだ後、彼らの表情がキリッとしたものに切り替わった。
 心の休息はこれでおしまい。ここからは戦場に立つ戦士が二人現われるのみだ。

「さてと、今日も日中は虐殺者の手掛かりを探しにいこうと思う。
 聖杯戦争の期限を考えればそろそろのんびりはしていられないが土地管理者としての責務は絶対に果たさねばならない。
 夜は敵対者の排除の為に使おうと考えているが何か問題や意見はあるかいファイター?」
「どちらもあらずだ。遠坂殿の采配に従おう」
「よろしい、では出発だ」



            ◇                   ◇



 町へ出たはいいがやることは昨日辺りと大して変化はない。
 ただ情報を収集し、異変を探索するだけだ。
 勿論彼らとて何らかの手掛かりが見つかるなんて楽観もしていない。
 この殺人鬼《かげ》はそう簡単に尻尾を掴ませるような迂闊な相手ではない。
 やはりこれと言った有力な手掛かりは入手出来ぬまま、多くはないがまた何人かの犠牲者が出たという情報を手にしただけだった。


 そして、遠坂たちは半ば義務感に駆られる形で町中の徘徊を続けていると、

 ………予想外の人物と鉢合わせしてしまった。

「───…な」
「え、ちょ、ウソ──ッ?!!」

 驚きの小さな悲鳴は眼鏡をかけた黒髪の少女から。余程想定外だったのか彼女の丸い瞳が驚きでこれでもかと見開かれている。
 まあ無理もない、これが正常な神経をしているマスターの反応だ。
 通常マスター同士が戦場で鉢合わせればつまり遭遇戦に発展するという事なのだから。

「敵のマスターと日中ばったり鉢合わせるって普通有り得る!? 何で教えてくれなかったのよセイバー!?」
 咄嗟に身構えて非難を飛ばす少女の隣には両手一杯に串団子を持った平服姿の金髪青年が見当外れの方向に驚いていた。
「うおっファイターのマスターか、ってことはファイターもいるな…。
 ちっ、しまったぜ……オレとしたことが団子食うのに気を取られて注意散漫だった、すまんアヤカ!」
「こ……この胸張って謝らないでよバカチン! だからお団子は三つまでって言ったんじゃないセイバーの馬鹿馬鹿!
 三十個も買ってお団子食べるのに夢中で敵の存在に気づかないってアンタ何考えてるのよ!」
「お団子のことだ! でもこれすげえウマいぞ?」
「──ッ! もういい! アンタはもう喋るな! そのまま死ぬまでお団子でも食べてればいいわ食いしん坊!」

 ギャアギャアと騒がしいコンビに、ファイターは仲か良いなと苦笑する。
 だが、緊迫する少女とは対照的に最初っからこんな日中のしかも人目のある場所で戦う気など無い遠坂は少女の姿を見て、

「………ハァ、しかし相変わらずはしたない格好だね君は。なんだねその腰のヒラヒラとした短い布切れは?
 娼婦ではあるまいに娘子がそんなに脚を露出させるとは嘆かわしい。もう少し慎みを持ちたまえ」
 あろうことか彼女の格好に呆れの文句をつけていた。
「しょ、娼婦…ですって……!? な、なによ、わたしが何着たってわたしの勝手でしょう!?
 これはスカートっていう今西洋で流行してる服なんだから! そういう自分だってなにさその格好! 同じ西洋かぶれの癖に!
 シャーでロックなホームズ名探偵のつもり? だったらもう少し茶系にしなさい。その毒々しい赤色は趣味が悪いわ!」
「赤は私のイメージカラーなので放っておいて貰いたい。しかし君のそれは海外から輸入した品なのかね?
 私はよく渡欧することもあって西洋の事情には詳しいがそのような短い穿き物が流行しているなど聞いたことがないぞ?
 その衣服はどちらかと言えば西洋よりも地中海周辺や中東辺りの踊り子らが来たりする衣装に似ている」
「え、うそ? それ本当…?」
「現在の日本もそうだが、西洋文化圏は基本的にみだりに肌の露出はしない風習だ。
 君の格好で向こうへ渡れば娼婦か最悪淫魔扱いされて魔女狩りに遭ってもおかしくはないぞ?」
「……………………」
 明かされた事実に激しい衝撃を受け黙り込む綾香。
 綾香が西洋の流行だと勘違いし今日まで穿いていた洋服は彼女の祖父が何かの手違いで日本に輸入してしまった中東の踊り子の衣装だったのだが、しかし哀しいかな少女にそれを知る術はないのであった。
「その姿では誰彼構わず男子を誑かしているように見られる。
 格好を除けば君の品位は決して低くないんだ。ならばもっと品位に見合った淑女らしい出で立ちでいるべきではないかな?
 いいや、むしろそうした方が君は遥かに映えると思うが」
「え…、そ、そう、なのかな?」
 まだ幼さの残る少女に実に大人の紳士らしい忠告をしてくる刻士。
 そして遠坂のお世辞ではない本心の言葉に満更でもない様子の綾香。
 しかしそんな紳士的な忠告に拳を振り上げ断固として噛み付いた男がいた。
「オイ、ぶざけんなよファイターのマスター! あんたは黙っててくれ!!
 アヤカの美脚が見れるのはオレのちょっとした自分へのご褒美なんだから余計なこと言うなよなッ!
 馬鹿かおまえは!? 直視してると鼻血出そうなくらいにイイ感じじゃん!
 貴様の余計な一言でアヤカの気が変わったらどうすんだこのアホッ! たわけ! バカヤロウ!」
「…………………」
「……………わたしコレ穿くの今日限りでやめようかな……」



「しかし意外ね。敵マスターとばったり遭遇しておきながら何も仕掛けないんだ?」
「なにが意外なものか。私はこの地の管理者なのだぞ。
 白昼堂々と騒ぎを起こすなど自分で自分の首を絞めるような愚行をどうしてする?」
「って主人の方は言ってるけど、ファイターはそれでいいのかよ?
 この聖杯戦争じゃあ次はいつになるか…いや次があるかもわからないぜ? ランサーの例もあるしな」
 好敵手と尋常な決着をつけたいらしいセイバーがファイターに話を振る。
「すまぬなセイバー。マスターが戦わないと言う以上は私も剣を抜くつもりはない」
 が、闘士の返事は予想通りのものだった。
 それを聞いた騎士は口を窄めて面白くないと再び団子に齧りつく。

「素直に教えてくれるとは思ってないけど、何をしているのか聞いてもいいかしら?」
 綾香の探るような視線に気を悪くすることもなく、意外にも遠坂は素直に口を割った。
「ああ構わない。折角の機会だこちらも訊きたいことがあるからね。
 私は昨日にこの町で起きた大量虐殺犯を探している。数十人規模の人間が一夜で惨殺されたのご存知かな?」
 刻士の問いに眼鏡の少女と金髪の青年は驚いた風な素振りを見せ首を横に降った。
「とにかくそういう事件がまたこの冬木の町で起こってしまったのだ。
 しかも今度はこれだけ派手にやっておきながら手掛かりが殆どなく、不審人物の目撃者も不自然なまでにない。そして──」

 刻士は綾香たちに自分が得たこの件の情報を全て開示していく。
 彼女たちもまた遠坂の話に真剣な表情で聞き入っていた。

「────と言うのが話の顛末だ。
 その上でこちらも訊ねたいのだが君らは何か知らないか? もし君達が犯人であるのならそうだと言ってくれればいい」
 相手の不躾な物言いに短気なセイバーが喰って掛かりそうになるのを綾香が宥めると、何も知らないと遠坂に伝えた。
「残念だけど有益な情報は持ってないわ。昨日の深夜過ぎならわたしたちは町にいなかった。
 その日は深夜になる前に自陣に戻ったくらいだし。だから犯人でもないし、そんな事件があったとも知らなかった。
 まあそれを信じるかどうかは貴方の自由だけど、一応潔白だと言っておくわ」
「やはりね。私も君達が犯人とは思ってなかったからな。
 そもそも君らが現場にあれだけの痕跡を残しておきながら全く尻尾を掴ませない、というのは考え難い」
 刻士は彼女たちの話を予想通りといった感じで大した落胆もせず軽く受け流した。
「気のせいかもしんねーけど、なんか少しバカにされてる気がするぜ……」
「やはりって、目星なんかはついてるの?」
「実行しそうな輩なら、な。雨生が筆頭候補なのだがいかんせん証拠がない」

 遠坂の口から魂喰い虐殺の前歴を持つ雨生虎之介の名が出たが、二人はその推測が的外れであるのを誰よりも知っていた。

「いえそれは絶対に有り得ないわ、ファイターのマスター」
「ああ、ねえな。少なくともソイツらが犯人だってのは絶対にないぜ」
 少女らの迷いのない断言に刻士もファイターも眉を顰めた。
 彼女達は自分らの知らない何かを知っているような口振りである。
「絶対にない、か。理由をお聞かせ願えるかなお嬢さん方?」
「教えてあげても構わないけど、それならこちらの条件も一つだけ飲んで貰いたいわね」
 すると少女の口から"条件"というあまり喜ばしくない単語が飛び出してきた。
 成程まだ未熟でも聖杯を狙うに値するマスターか、と刻士は駆け引きの気配に内心で舌打ちをする。
「条件? フッ、他者の足下を見るとは浅ましい限りだ。私の話を聞いて君達が殺人鬼に抱いた義憤は偽りなのかね?」
「勘違いしないで頂戴。何も貴方に不利になるような条件を突きつけるつもりはないわ。
 折角こうして戦わないでいられる状況下で会話しているんだもの。
 わたしは貴方に同盟を結んで欲しいだけよ。対ライダーと戦いに備えた同盟をね」
 しかし彼女の言う条件とは彼らの予想外のものであった。警戒心が薄れ代わりに興味が湧いてくる。
「私と対ライダー同盟を結びたい、と? ふむ、話が見えてこないね。同盟を結べば君らの持つ情報を開示すると?」
「約束するわ。まあとは言っても話を聞けば嫌でも同盟を結びたくなるとは思うけど。
 人間タダより何かおまけが付属してた方がお買い得だと感じるでしょう?」
 そうして可憐な花のように微笑む綾香。
 それが決め手となった。刻士もファイターも完全に少女の話に興味をそそられていた。
 思い返せば自分達はまだライダーの情報を殆ど保有していない。少女の話は乗るだけでも得るものがある。
「わかった聞くだけ聞こう。どういう意図で私らと対ライダー同盟を結びたいのかな?」

 柔らかな物腰の遠坂に促され喋り始める綾香。言葉は簡潔に要点を押さえて過不足なく説明した。
 自分とライダーとの関係。ライダーの能力、宝具、秘密について。宝具の真名を幾度も解放するその異常な特異性。
 ライダーの宝具はあまりに凶悪で危険この上ない事を強調し改めて同盟を組みたい旨を伝えた。


「だけど一つだけ先に断っておくわ。
 同盟を結んだからと言って別に貴方たちはわたしたちと協力してライダーを倒さなくても構わない。
 わたしはただせめてライダーとの決戦を他者に邪魔して欲しくないの。言わばこれはその為だけの同盟」

 ───何人たりとも祖父の敵討ちに余計な横槍を入れて欲しくない。
 そう語る彼女の表情は疑いの余地も挟めない真実の匂いしか嗅ぎ取れない。騙し討ちや策略の気配は微塵も感じ取れなかった。

 刻士は結論を出す前に一度念話でファイターとも意見交換をしてから改めて大きく頷いた。
「いいだろう、君と同盟を結ぶのを全面的に承諾しよう。
 君の話を聞く限りではこの同盟は確かに私にも多大なメリットがあるようだ。
 しかし宝具を乱発出来るサーヴァントか。一体どんなカラクリが…どうやって魔力を工面している……?」
「オレもこの眼で見てたんだからウソじゃねーぞファイターのマスター。
 アイツそれでアーチャーの要塞の護壁をガンガン削りまくって最後なんかもうスンゲェ大爆発で城壁を全部根刮ぎ消し飛ばしやがったんだから!
 まったく太陽王だかなんだか知らないがムカつく奴だぜホントっ! 無駄に偉そうだしアヤカの爺ちゃん殺すし!」
 まだ微かに疑問の色が拔けない遠坂の口振りにセイバーが口を挟む。
 しかし刻士はセイバーの話そのものよりも彼が何気なく口にしたある名称により敏感に反応した。
「なに太陽王だと?! ちょっと待て、するとライダーの正体はラメセス二世なのか!?」
「さあ? でも少なくともオレはそうだと思うぜ? ま確定はしてないけどさー。けど昨日アイツ否定しなかったよな」
 すると今の会話を聞いていたファイターも何か思う所があったのだろう。
 霊体化しているファイターが何やら遠坂に喋りかけているのが彼らの様子から窺えた。
「ん? なんだファイター? なに? ………………ああではあの時発見し破壊した石像はライダーの宝具だったわけか!
 成程確かにそうだな。ラメセス大王の背景を考えれば建造物系の宝具はとても自然だ。
 とすれば問題は石像の能力か………失敗したなまず詳しく調べてから破壊するべきだったらしい。
 てっきりマスターが施した仕掛けとばかり思い込んでいた」
 そう言いながら少女と騎士をそっちのけで反省会を始める遠坂たち。
 綾香は彼らの反省会が長引く前に話を本筋に戻した。

「えーとお互いライダーについての話はまだまだあるでしょうけど、とりあえず同盟成立ってことでいいのね?」
「……ん? ああ勿論だとも。むしろこちらから申し出たいくらいだ。
 もしライダーがかの太陽王であるのなら単独で挑むにはファイターを以てしても相当のリスクを負うことになる。
 ライダーが宝具攻撃を乱発出来ると言うのなら尚更だ。君らと協力できるのは私にとっては有り難い提案だよ。
 戦場でライダーと遭遇した場合、もし君らが我々の近くにいたのなら共闘すると当代遠坂家当主の誇りに賭けて誓約しよう」

 刻士の宣誓が終わると、どちらともなく相手へ向かって手を差し伸ばす。
 ある種の通過儀礼として二人握手を交わしそれを同盟成立の印とした。

「これで同盟成立っと。じゃあこちらも約束通り話の続きをしないとね。
 雨生たちが絶対に犯人ではないっていうのはね、一昨日の夜にわたしたちがその雨生とバーサーカーを倒したからよ。
 貴方の話を聞く限りじゃ時間的に考えて虐殺が起きたのはあいつらが死んだ後よ。
 肉体を持たない幽霊じゃ生身の人間は殺害できない、そうでしょ?」
 少女の話はよほど驚く内容だったのか、遠坂は両眼を見開いて馬鹿な…と唖然としていた。
「バーサーカーを倒した……だって? まさか…あの男殺の魔剣使いをか?
 信じられんファイターですらあの魔剣の前には完敗だったというのに。………相当緻密な作戦でも練ったのかい?」
「バカ言え実力だ実力! 失礼な奴だなオマエ! オレらが本気を出せばざっとこんなもんだいフフフン!」
 自慢気に鼻を高くするセイバー。
 一方勝利こそしたが同時に殺されかけた事情を知っている綾香は敢えて何も言わないでおいた。

「とにかく、わたしたちは魔力切れによる雨生の自滅とバーサーカーの消滅を確かに見届けた。
 だから彼らが虐殺犯だってのは無理があるわ。ここに居るわたしたちを除外すると後はアーチャーとライダー……」
「いやそのアーチャーと間桐は我々が昨夜倒した。しかし殺人鬼は彼らでもないと思う。
 間桐燕二は決して莫迦ではない隠蔽は完璧にする筈だ。キャスターの可能性は?」
「それもねえと思う。オレたちも昨日ライダーとやり合ったんだけどさ、ヤツはキャスターはもう始末したとか言ってたぞ?
 それがホントならキャスターって大量虐殺が起きる前に脱落してたんじゃないか?」

 出てくる名前に次々と否定の言葉が重なっていく。
 影の如き虐殺者の正体を彼らは未だ掴めないでいた──────。







──────Casters Side──────


 水が腐敗したような、鼻につく嫌な空気に包まれた暗い洋館。
 そこがキャスターの新たな契約者《マスター》の拠点であった。

 朝日が昇ってさえなお薄暗い寝室にいるのは間桐燕二とキャスターの二人だけ。
 戦いに敗れアーチャーを失い森を敗走していた折に出会った新しい主人は疲れ果てた様子で深い眠りに落ちていた。
 しかしその寝顔に苦痛の色は一切ない。
 というよりも燕二が数時間前に遠坂との魔術戦で負った激しい火傷も嘘だったように無い。
 それもこれも治癒術の名手であるキャスターが彼の火傷を跡形もなく綺麗に癒したおかげだった。

「上手くいって本当によかった……卜占の結果を信じてみっともなくもしがみつき続けた甲斐があった」
 新しいマスターの寝顔を見下ろしながら吐き出された吐息は安堵感と達成感で一杯だった。
 かなり際どい賭けではあったが、とりあえず自分が賭けに勝利したことを素直に喜ぶことにした。


 ────キャスターの予定が完璧に狂ってしまったのは、三日前に起きたあのライダーの工房襲撃からであった。
 そして襲撃の結果、彼は最初のマスターであったラウネス・ソフィアリを失った。
 しかも皮肉な事に、用心としてラウネスの頭部に刺しておいた保険がキャスターの命を救い、変わりにラウネスを殺した。
 彼はそんなつもりで他者の肉体を一時的に掌握出来る魔術針をマスターに仕掛けたのではない。
 魔針はあくまで令呪封じの保険。
 既に見切りをつけていたソフィアリと穏便に契約を切らせる為に仕込んだものにすぎない。
 だが確固たる事実として、その保険は意図せぬ方向で使われキャスターの命を長らえさせた。
 ───あの衝突の刹那。
 ライダーの宝具がその真価を発揮し工房全てを白と熱で染め上げた瞬間、キャスターはソフィアリの令呪を外部操作で使用した。
 発動させた命令は『その場から瞬間離脱しろ』。
 つまりテレポートによる工房からの緊急脱出である。
 何も知らぬソフィアリからしてみれば一体自分の身に何が起こったのかさっぱり理解出来なかったであろう。
 考えてもいない命令を突然口が勝手に叫ぶのだ。
 しかもそれが令呪による命令であれば尚更混乱の極みだったに違いない。
 令呪の一画がワケも分からず消失してしまった時のソフィアリの呆然とした表情など想像も容易だ。

 そうして結局、物理的に距離が遠退いたせいで救援も間に合わず……、
 彼の主人はそのすぐ後に殺されてしまいキャスターは契約の切れたはぐれサーヴァントとなった。

 しかし問題はここからである。
 独りになってから今日まで三日。
 たったの三日間とは言えど、それでも青年にとってはまるで煉獄を歩くかのような苦しき日々だった。
 そもそもサーヴァントと契約し十分な魔力を供給出来るだけの高い素質を持つ人間などそうそういるものではない。
 ならばそんな状況下でサーヴァントが存命するには人間を喰らい魔力を補給する他ない。
 だがしかし、キャスターは決して魂喰いを良しとしなかった。
 自分の仕掛けた種が結果としてマスターを死なせてしまったことに対する厳罰の意味もある。
 が、それ以上にクリスチャン・ローゼンクロイツという英雄は弱き者や貧しき者を救った聖者なのだ。
 彼の人間に対する愛情は非常に深く、いくら人類の未来を左右する悲願があろうとも己の存命の為に誰かを殺すなど出来なかった。

 そこでキャスターはある一つの賭けをする。
 彼が非常に得意とする分野の一つであった卜占で三日後に未契約マスターが現われる、と出たのだ。

 こうして己の生死と人類の霊的進化を賭けた綱渡りの三日間が始まった。

 キャスターは一般人と正式なマスター契約を交わすのではなく、現界に不可欠な依代となって貰うだけに留めた。
 そして一時の依代となって貰った一般人からこっそりと精力を命に全く差し支えない程度だけ頂戴する。
 するとまた次の依代を転々としそこでも魔力を微量だけ頂戴する。
 これをひたすら地道に繰り返し、三日後の正式な契約の瞬間までじっと耐える。
 正直に言って青年のこの行動は自殺行為に等しかった。
 例えるなら到底足りるとは思えない量の酸素ボンベで海底に潜るようなものである。
 真っ当な理性がある者なら絶対に苦しむだけ苦しんで虚しく消えるだけと嫌でも分かろう。
 だがしかしキャスターはそれを承知の上で地獄の道を選択した。
 人類への愛情か、元主への懺悔か、悲願への執念か。
 とにかく彼は一世一大の大博打に勝ち今こうして新たなマスターを得るに至ったわけである。



           ◇                      ◇



「おはようございますマスター。相当にお疲れだったようですね。時刻は夕方ですよ?」
 ソイツの第一声は穏やかな挨拶だった。
 上体を起こしながら実に悪くない態度だと胡乱な頭で燕二はそう思った。
 どこぞの役立たずで無礼な弓兵と違ってこのサーヴァントは下僕しての分を弁えているとみえる。
「ふわぁぁぁ~。ん、そうだった。俺はキャスターと再契約したんだったな。
 ……んで、おまえ魔力の方は? どの程度回復した?」
 燕二は眠気を振り払う為に頭を強めに振る。少しだけ頭が目覚めた気がした。
 そしてまず最初に確認したことはキャスターの状態についてだ。

 昨夜の森での再契約から間桐邸に帰ってくるまでの道中に大まかな事情は聞いていた。
 ライダーの強襲を受けマスターを失ったこと。その後はぐれサーヴァントとなり見苦しい抵抗の末に死に損なってくれたこと。
 その為キャスターが瀕死に近い状態であること。燕二も今夜丁度サーヴァントを失っていたことなどなど。
 そうやって燕二もキャスターもお互いの持つ情報を交換し合う事で新たな協力関係を結び現在に至る。

「特に問題ありませんね。魔力も六割程度は回復出来ました。
 この工房の下を通る霊脈はなかなか上等ですし何よりマスターとの相性がいい。貴方が休息するには最適な力場のようですね」
「ちょっと待てもう六割も回復しただって!? バカな速すぎる、お前まさか嘘を吐いてるんじゃないだろうな?
 いや……それとも俺が寝る前にお前が敷いたこの魔法陣……そんなに高い効果があったのか?」
「マスターに嘘など吐きませんよ。まぁボクもあらゆる手段を講じて回復に努めましたので。
 これは単にマスターが魔法陣の援助により自然から段違いに上がった魔力供給を受けた成果ですよ。
 ボクらサーヴァントは大源《マナ》からの魔力供給を受けられませんから。
 なので代わりにマスターにはマナを普段よりも数倍多く吸収して貰いそれからボクに流して貰ったと言うわけです。
 これだけこちらに流れてきたということは、マスター自身の魔力も完全に回復しているのでは?」
「……え?」

 キャスターにそう言われて始めて燕二も自分の状態に気が付いた。
 全身が素晴らしく活力に充ち満ちている。昨日の戦闘で底を着く位に消費した魔力も完全に元通りであった。
 長年この間桐邸で生活していたが、かつて一度も体験したことのない圧倒的な回復力に燕二は感動した。
「す、凄え……これが、これがキャスタークラスのサーヴァントが持つ性能なのか!
 イイ、治癒魔術の腕前といい凄ぇいいよオマエ! もうアーチャーなんか不要だ。あんな奴よりも余程有能だぞキャスター!」
「それはどうも。ところでマスター少々話は変わりますがよろしいでしょうか?」
 キャスターの真剣な表情で重要な話だと察した間桐は言ってみろと先を促した。

「では。キャスタークラスのボクとしましては新たな工房を用意しておいた方がいいと思います。
 工房からのバックアップなしでは白兵戦を得意としないアーチャーにさえ勝てないとわかっていますからね。
 三日ほど時間を頂ければそれなりに堅牢な工房を用意出来ますけど如何しますか?」
 キャスターの進言に燕二はすぐに準備するよう命令を出そうし、
「おうさっさと用意に入───いや待てよ三日…? いいや駄目だ、それじゃあ間に合わんかもしれない」
 唐突に忘れていた何かを思い出したように頭を横に振った。
「え、と………間に合わない、と言うと?」
 一方のキャスターも小型の丸眼鏡を指先で触りながら、マスターの言っている意味がよく分からないと小首を傾げた。

「オマエは知らないかもしれないけど、聖杯戦争には明確な期限があるんだよ。
 糞爺の話では前回の聖杯降霊儀式は期限切れによる終幕だったらしい。それもグダグダで酷い有り様だったんだとさ。
 大聖杯が起動しサーヴァントが召喚可能になってから既に約一ヶ月程の時間が経過している。
 七騎全てが揃ってからだと多分半月程度ってところか?
 前回もその位の期間で戦いが強制終結したようだからそろそろ制限時間切れも視野に入れて行動しなきゃならない。
 俺の読みだと短くて二日、長くて四、五日程度で強制終結するのに工房の用意だけで三日は掛かり過ぎだ。
 最悪工房制作途中で儀式が終わるぞ。爺も同じ程度の残り日数と見てるようだから俺達にのんびりしてる時間はねえ」

 そう、聖杯戦争には刻限がある。
 この生存競争が聖杯を降霊する為の儀式であるからには、中核である大聖杯のシステムが可動している期間内に全部の儀式工程を完了させられなければそれまでの苦労や犠牲の全てが無に帰す。
 苛酷な条件ではあるが、大聖杯が開く短い期限の内に七騎全てを消滅させねば冬木の聖杯は完成しないのだ。
 だが彼らにはまだ狩り殺さねばならぬ敵が残っている。

「だから俺としては出来れば二、三日以内に残る全てのサーヴァントを消滅させておきたい」
「困りましたね、そうとなるとこちら側も積極的に敵と接触して真っ向から敵サーヴァントを撃破しないといけない。
 高い対魔力を持っている相手が残っていると圧倒的に分が悪いですね…」
 マスターの方針に従うと非常に厳しい道のりになるであろうことを思えば自然とローブ姿の青年の表情が曇る。
 特にセイバーが鬼門。工房内で戦ってなんとか撃退出来るといったレベルの相性の悪さだからだ。

「ああそういえばもう一つ注意事項があった。
 俺以外のマスターで大規模な魂喰いをしてるサーヴァントがいるようだからソイツにも注意しとかなくちゃならない。
 あれだけ派手に殺せば手駒も相当の魔力を蓄えてるだろうからな。
 …………ぁ……そうか、そういうことだったのか…! やっぱり大量虐殺は遠坂の仕業だったんだ!
 絶対に間違いねえ! あんな奴がマグレでも俺に勝つなんておかしいと思ったんだよ!
 魂喰いで大量の栄養補給をファイターにさせたからヤロウは俺とアーチャーに勝てたんだ! そうに決まってるッ!」
 両眼を血走らせ興奮気味に遠坂を薄汚いと罵る燕二。ぶり返した屈辱感は顔を朱に染め憎悪を燃やす。

 ────しかし、

「それは違いますよマスター。ボクはその殺人鬼の正体を知っていますから」

 マスターの醜態を冷めた眼で見詰めながら、キャスターは意外な台詞を口にしていた。







───────Interlude ───────


 志士たちがこの冬木に到着し、調査を開始してから三日。
 こうして彼らの役目は、その命と共に終わりを告げた。

「な、なして、なしてピストルの弾ぁ喰らって死なん?!! 何故に刀で斬られて血が出らんのじゃ!!?」

 志士の脅えた表情に黒い影の塊が笑った……ように見えた。

 こうなるともはや逃げることも叶わない。
 それは人間が絶対に出遭ってはならない凶運の権化。
 不吉を強要する悪魔。事故死に近い災害。

 二匹の野犬の口に咥えられてふらりと志士達の前に現われた"ソレ"は、たちまちその呪いのような魅力で彼らを狂わせた。
 まるでヒトを魅了する吸血鬼の邪眼だ。
 抵抗の余地すらなく妄執に憑かれた彼らは仲間同士でソレを奪い合い殺し合った。
 次々に同士討ちする形で仲間たちが死んでゆき、その度に悪魔の姿が変わった。

 そして最後に残ったのは二人。
 志士の中で最も実力者だった剣士が許しを請う仲間の志士に対して刃を振り上げ、

「ま、まままま、待て! 眼を覚ま───ゾギャ?!」

 無造作に頭から一刀両断された。
 人間だったものがスイカみたいに綺麗に二つに割けて地べたに転がり、そして赤い花を咲かせる。

 何の真実も掴めず。何一つ分からぬまま。何の真相も知ることなく。
 最初から部外者であった彼らは、最後まで部外者のままその舞台から退場した。




───────Interlude out───────




──────Sabers Side──────


 陽もとっぷりと暮れて、深山の町の飯場では食欲を誘う夕餉《ゆうげ》のいい匂いがそこかしこから漂ってくる。
 現在彼女が居るのもそんな空腹を刺激する香りを漂わせる飯屋であった。

「ごちそうさまでした。ふぅ、美味しかった」
 膳上の夕食を全て平らげた少女は箸を置いて掌を合わせた。
 昼間遠坂から不穏な事件を知らされた彼女たちは相談の末、自陣には戻らずそのまま真相究明に乗り出すことにした。
 しかし腹が減っては戦は出来ぬ、という諺に従いこうして調査前の栄養補給をしていたわけである。
「む……なによ、これは予め決めてたことでしょ?
 異国人の貴方が傍にいたら嫌でも目立つんだから食事の時は引っ込んでるって自分だって了解したんだから我慢して頂戴」
 綾香が他人には聞こえないよう小声で誰かに向かって話しかけている。
 恐らく霊体化しているセイバーが美味そうな飯にありつけなかった不満を零しているのだろう。
「はぁ、わかったわよ。洋館に帰ったらわたしが何か作ってあげるから。それでいい? うん、じゃあ決まりね」
 少女の提案に騎士も乗ったらしい。子供みたいな青年が大人しくなったのが彼女の表情から窺えた。


 食事代を支払って飯屋から出る。
 まだ周辺には人の気配で溢れていた。これから夕食の者。酒を愉しむ者。夜遊びをする者と実に様々だ。
 さて、夜はまだ始まったばかりではあるが早速調査を開始するとしよう。
 ファイターのマスターは一足早く行動を開始しているだろうから。

 虐殺者の影を追って綾香たちもまた活気付く夜の町へと溶け込んでいった。







──────Casters Side──────


 闇夜の深度を見計らって洋館を発った燕二は従僕を引き連れて夜の町を駆け抜けていた。
 装いこそ毎度の袴姿だが、ただ一箇所だけいつもの彼と違う相異点がある。
 それは手だ。燕二は墨で塗り潰しているのかと見紛う程に真っ黒な手袋を両手に装着していた。
 尤も外見だけでなく中身の方もいつもとは劇的に違うのだが、それは今重要なことではないので保留しておく。

「しかしお前の目撃談は本当なのかよ? にわかには信じられんなその話」
 半信半疑な…というより殆ど信じてない表情の間桐。
 だがキャスターはそんなマスターの態度にも嫌な顔一つせずに返事をする。
「流石に見間違いようがありませんよあんなもの。
 確かに少々信じられない話でしょうが事実です。無差別虐殺を行なっているのは───」


 ───バーサーカーの魔剣ティルフィングです────。


 キャスターの口から出た犯人の名はヘイドレクが持っていた殺戮の魔剣であった。
 ローブ姿の青年は揺るがぬ自信の下にそう断言している。
「だがバーサーカーは何故かその場には居なかったんだろ? 魔剣だけ現界してるなんて珍妙な事態があんのかよ?」
「バーサーカーはまだ現界してて魔剣に別行動を取らせているのか、それとも持ち主は既に亡く魔剣だけが残っているのか。
 さてどうなのでしょうね? ただ一つ言えるのはあの呪剣は単独行動が可能であるという点です。
 余程特殊な性質持ちなんでしょう。まあ尤も"自我を持つ剣"と言う時点で既に十分特殊な存在ですけれど」
 冷静に言葉を返してくるキャスターの説明にまだ完全には納得がいってないのか、間桐は他の疑問を投げかける。
「だがもしティルフィングだとして何で遠坂の野郎が気付かない?
 奴の話だと不審な人影を目撃した者は誰も居なかったらしいが。
 いやというかそもそもただの刀剣風情がどうやって移動してるんだ? 足が生えるわけでもないってのに」
「その辺りの問題はあの魔剣が元々持ってる機能が解決してくれたようでしたよ。
 人や動物などの生き物を魅了して自分を持ち運ばせて移動してるんですよあの魔剣は。
 実際にボクが見た時は猫が数匹掛かりで運んでましたから。目撃者がいないのも当然ですね。
 仮に暗闇の現場近くで犬猫を数匹見かけたとしても誰もそれが犯人とは認識しない。
 そして認識されなければそれは居ないものも同じです」
「ハ、確かにまともな脳味噌してる奴なら犬猫を虐殺事件と結び付けたりはしないか。
 さらに魔剣を運んだ人間は他の死体と仲良く死んでるから犯人の痕跡に繋がる事もない……か。
 チッ、たかが鉱物風情が生意気にも賢いじゃないか」
「恐らくティルフィング自身の知恵ではなく、ヘイドレクの神域の叡智から学習したのでしょう。
 あの狂戦士は一流の戦士であると同時にその辺の知将や軍師では足下にも及ばない策謀の天才でもありましたから」

 燕二はさぞ呆れたとばかりに溜息を吐いた後、
「…やれやれ。なんて迷惑な話だ、ったく。
 しかしまあ考え方を変えればこの一件は俺達にとっては最高の好機でもある訳だ」
 その貌にニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「それにしてもマスターは本当に独創的な発想をする人だ。
 貴方が最初に魔剣を回収しに行くと言い出した時は本当に驚いたんですから」

 キャスターの話に半信半疑だった間桐がわざわざ行動を起こした最大の理由がそこにあった。
 もし真実、この魔道の英雄が言うようにまだ魔剣がこの世に残っているのなら……。
 それは陣地を作成している時間的余裕のない間桐陣営にとっては最高の武器になり得る。
 切れるカードの少ない燕二としては他の連中に発見される前に何がなんでも入手しておきたい魔剣《どうぐ》なのだ。

「ところでもう一度確認しておくが………この手袋本当に効果があるんだろうな?」
「勿論。ボクが丹精込めて作ったお手製の逸品ですのでご安心を。あの程度の呪力ならその手袋で遮断できます」
 黒い手袋をやや不安そうに眺める燕二にキャスターは柔和は微笑を返す。


 真相を知る者と知らぬ者たちの間に生まれた埋まらぬ溝。
 こうして、三組の殺人鬼探しは急遽ティルフィング争奪戦の様相を呈してきたのであった。







──────Sabers Side──────


 闇夜が時間の経過と共に色濃くなるにつれて町の活気は薄らいでいった。
 それはきっと不穏当な殺人事件や時代が変わろうとする激動の波に翻弄される冬木の人々のささやかな抵抗だったのだろう。
 昏い話題に呑まれまいと必死に明かりを灯し活気付いていた町中も今や静かなもので、周辺には人っ子一人見当たらない。
 深山の中心地から離れた地点に位置する区画はそれが特に顕著で、時折この町の警邏を担っている見廻組の集団を見かけるくらいだ。

「誰もいないし、なんにも起こらねえ。いやむしろこの町の空気そのものがもはや異常か」
「本当ね。今は何も起きてないけどいつ何が起こったとしても不思議じゃない空気に町全体がなってる」
 不気味なくらいに静まり返った深山の町。
 町人はとっくに寝静まっており、冬の寒夜では夜鳥や虫の音すら聞こえてこない。
「さてと、これからどうするアヤカ? この辺はある程度見廻ったけどこれといって何も───」

 セイバーが次の場所への移動を提案しようとしたその時、
 少し離れた所から静寂を引き裂く数発の発砲音が──!!

「───!? セイバー今の聞こえた!!?」
「ああ! ついに異常発見だな! オレが先に行くぜ、アヤカは後ろからついて来い!!」
 そう言ってセイバーは即座に走り出した。
 音の発生源を目指し、彼女の足でも辛うじて追って来れる速度で先行する白騎士。


 綾香は先をゆくセイバーを月明かりと騎士の甲冑が放つ反射光を頼りに暗闇の中を懸命に追走し、
 それから程なくして破裂音のしたその場所へと辿り着いた。

「───────────」

 だが、到達したと同時に言葉を失った────。


 第一印象は苺ジャム。一面に広がっていたのは赤。
 朱色の果実を砂糖《くつう》で煮詰めてハイ簡単出来上がり。

 赤。赤、赤。赤、赤赤赤赤赤赤赤々赤赤───!!

 血肉をバケツでぶち撒けた凄惨な光景に息を飲む。
 咽返る臭気に包まれし地獄の血の池が何故か場違いな地上に出没していた。

 そして、その地獄絵図の中心で佇むのは一人の武士らしき男。
 だがしかし……それ以上に嫌でも眼が釘付けになって離せなかったのは、

「見ツケタ────ヤット見ツケタゾ貴様達、ゲ、グゲゲゲケケッケゲゲゲケケェケケケゲゲゲゲーッッ!!!!」

 一昨日の死闘の果てに、狂乱の戦士と共に消滅した筈の魔剣が血に塗れて狂笑している姿だった……!!

「おい嘘だろ……なんでおまえがまだ現世に残ってやがる!!?」
 聖堂騎士は眼前の魔剣侍を完全に敵と見なし素早く鞘から聖剣を抜き構えた。
「本当にどういうことよこれ!? なんで? なんであの剣がまだ残ってるわけ!?」
 今の二人の胸中にあるのはまさかという驚愕。思いがけない敗者復活に正常な判断が出来ない。
 しかし少女らの状態回復を待ってくれるような悪魔でもなく………、

「見ッケ、見ッケ遂二見ッケタ!! コロスワ、殺殺ス殺ス殺殺殺スス殺ス殺殺殺殺──!!
 ヘイドレクノ仇…! オマエ滅茶苦茶シタクテ、吐キソウナノ我慢シテ女ノ血モ喰ッタ!
 ダカラ魔力一杯腹一杯。ダカラ、殺シテ、ア・ゲ・ル・ネ、聖堂騎士────!!!!」

 壊れたおもちゃのように侍は首をガタガタと不気味に揺らして、
 ティルフィングが問答無用に襲いかかって来た!!

「下がってろアヤカ!!」
 敵の進撃に対応したセイバーが迷わず迎撃に出る。
 魔剣に脳髄を支配されて鬼へと変貌した志士がこちらへと一直線に突進してくる。
 暴走機関車を思わせる突撃。それは悪魔の足下に転がる死体や血液を蹴散らしながらの穢らわしい前進だった。
 瞬時に騎士との間合いを詰めてくる。驚きなのはその速さ……!!
「な、一昨日よりも疾い!?」
「■■■■■■ーーーーーー!!!」
 復讐を糧に今日まで現世に留まり続けた呪剣が狂った叫声を発して騎士の一刀両断を試みる。
 咄嗟の判断で敵の剣撃を受け止めたセイバーだったが、これが想像に反して鋭く重い……!!
「こ、コイツどうなってんだ……! 一昨日の量産品どもとはランクが何もかも違うぞ!!?」

 さらに立て続けに放たれる五発の連続攻撃。
 敵の攻撃を鮮やかに捌きながらも、やはり一昨日の量産狂戦士とはレベルが全く違うとセイバーは確信する。
 パワーやスピードもそうだが何よりも身体の動きや剣の扱いが見違えんばかりに向上していた。
 単に刃を振り回すだけのお粗末な剣筋ではない。こいつは間違いなく剣士の太刀筋に他ならない。

「ギゲゲゲー殺殺殺殺ス! 血血血、奪ウ血血ィィィイ!!
 素晴ラシイ素晴ラシイ! コノ肉体ハ素晴ラシイ!! イイ肉ダ凄イ肉ダ一昨日ノ駄肉トハ大違イデ桁違イヨ!
 ズット今ノ身体ヲ使…血血血血違ウ、アタシハ奴ヲブッ殺シタインダモン!!」
 敵の言動は常軌を逸していた。既に理性なんて上等なものはもう魔剣には存在しない。
 バーサーカーの消滅がこの駄剣の理性とも呼べる部位を完全に破壊していた。
 残ったのはセイバーたちに対する復讐心と殺戮本能。
 死ぬほど嫌悪している女の血さえも食むぐらいにコイツのタガは外れてしまっているのだ。

「死、死■死死死死■■■■死死死ーー!!!」
 奇声と殺意を振り撒いての剣の乱舞。志士の肉体に染み付いた修練がスムースな剣戟を実現する。
「セイバー! やっぱりそいつ一昨日の狂戦士たちよりも能力が高いわ! 注意して戦って!!」
 後方に控えた綾香がサーヴァント透視能力で得た情報を騎士に伝える。
 直接手合わせているセイバーの主観だけでなく、客観的な視点からもこの狂戦士が一昨日の紛い物とは質が違うと証明された。
「そうか、乗っ取る肉体の性能次第で能力も上下すんのか! なんてふざけた糞剣なんだよクソッタレめ!
 コノ…! 相当腕の立つ剣士なんだろうなこの男!!」
 騎士と侍が互いの急所へ鋭い刃を叩き込み合う。
 しかし剣は敵の心臓や首を斬り裂くこと叶わず、相手の防御が鋼の壁となって立ち塞がる。
 激しく斬り結ぶ彼らの足下は汚らしい血肉の沼で酷くぬかるんで闘い難い。
 そして狂戦士の暴れ狂う挙動の度に赤い飛沫が騎士の純白姿を醜く穢していく。

 攻勢を強めるティルフィング。無数の乱撃が血飛沫と共に飛来する。
 大規模な殺戮で相当な魔力を喰い蓄えたのだろう。ろくに依代も魔力供給源も無い癖に単騎でこれだけ暴れられるとは恐れ入る。
 だが、そうせずにはいられぬ程にティルフィングにとってヘイドレクという英雄は価値のある存在だったのだろう。
 そんな相棒の無念を晴らすべく魔剣は狂気を増幅させながら狂い続ける。


「知ッテルワ、貴様アタシニ勝テナイ。男ノオマエ勝チ目無イ、クゲケケケケェーーーッ!!」
「…………………!!」

 そんな本物の地獄絵図のような血戦のリプレイを少女は固唾を飲んで見守り続ける。
 正直な話をすれば戦闘の迫力はさしてない。
 それはそうだ、あの狂戦士はファイターやランサーらに比べれば三下も三下なのだから。
 だが、死体が散乱する血みどろの戦場で妄執と怨念と狂気を迸らせているのであれば話は変わってくる。
 人間の持つ理解出来ぬモノへ対する原始的な畏怖の念が少女の身体の奥からふつふつと沸き上がってくるのだ。


 ─────しかし、それもあくまで人間であればの話。

 狂気も怨念も妄執も憤怒も執念も憎悪も怪物も悪魔も地獄も、
 こっちはそんなもんはとっくに見慣れてるんだよと言わんばかりの冷めた瞳で───

「オイ勘違いすんなよ駄剣。
 オレを追い詰めたのはオマエなんかじゃない、高き誇りを持ったバーサーカーだ。
 もう一度だけ言ってやるからしっかり覚えておけ」
「──ギ?」


「思い上がるな、オレを追い詰めたのは断じて貴様などではない─────!!!!」


 踏み込みは疾風。振り抜かれる斬撃は雷の一閃。
 瞬きも許さぬ一瞬の出来事。
 音を抜き去る騎士の反撃はただの一撃で怨念に操られた狂える悪鬼を永久に黙らせた。

「ギ───ガゲ……、ギ─────!!?」
 弾かれた魔剣が虚空を舞う。
 寄生していた志士の体は修理の効かない損傷を受け、もはや操り人形としての用をなさなくなっていた。
 天界から追放された天使が地上に墜ちる。
 そんな馬鹿な空想を一瞬抱いてしまうある種の美しさを伴って、魔性の刀身は大地に深々と突き刺さった。


「終わりだな魔剣。どういう原理で現界しているのかは知らんが、ここでぶっ壊しといてやるぜ」
 神に代わって魔を撃滅する者して、セイバーは眼の前の"邪悪"を見逃す気など毛頭なかった。
 墓標のように身動きが取れなくなったティルフィングに聖堂騎士が冷淡な死刑宣告をする。
「ウ、動ケナイ!? キキキ貴様、貴様貴様貴様ーー! キサマキサマキサマキキキキキキサマ!!
 アアアァァァアアアアーーー! ギィイキキケケエケケキキケゲグギケケケアアエエエエゲエアアエーー!!
 殺サセロ殺サセロ殺サセロ殺サセロコロス殺殺殺ロシタイデス殺殺ロス殺サセテヨゥ!!」
 言葉を喋る為の器官など持ち合わせていない癖に、二人の脳内に直接言語らしきものが念話のように雪崩込んでくる。
「きゃ───な、なにこの音?! あ、頭痛い…くぁ!!」
 騎士の背後では綾香が両手で耳を塞いで激しい頭痛に耐えていた。
 魔剣の声は黒板を爪を引っ掻いた時に発生するあの不快な音にどこか似ている。
 長時間聴いているだけで正気を失いそうだ。
「ぐっ痛…! このやろ最期の最期まで往生際の悪い奴め。だがこれでテメーの足掻きも終いだ!!」
「ヤ、止メ───」
 悪魔の命乞いになど耳を貸さず、高らかに振り上げられた聖剣デュランダル。

 そして躊躇なく一撃の下で魔剣を破壊しようとし──────



「────え? な、今度は何!? なんなのこれ……ッ!!?」


 騎士は主人の悲鳴でその処罰の手を止めざる得なかった。
「何かの魔術が発動してる!? ヤバイ早くそこから逃げろアヤカーーーッ!!!」
 歪んでいた。少女の周囲の空間が陽炎のようにぐにゃぐにゃと歪んでいた。
 一目で看破出来るくらいの多大の魔力を動員した魔術式が起動している。
 その場から逃げようとする綾香は、しかしそのぐにゃぐにゃの空間に囚われたみたいに全然身動きが取れずに……。
 やばい。アレが一体何の魔術かは知らないがとにかくあれはマズい。
 マスターの身の危険を察知し、セイバーが少女の許へと走り出す。

 だが、騎士が少女の細腕を掴むよりも一足早く───

「た、助けてセイ──────」

 綾香の姿は霞のようにその場から掻き消えてしまっていた。







──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!第三十回


∨「明けましておめでとう皆鯖マスターの諸君。
  新年を迎える代わりに死亡フラグ立ててデッドでバッドなエンドを迎えたマスターは私の教室へようこそ」
F「あ! ちょ、ローランさんお団子なんて食べちゃ駄目です! そこの臓硯お爺さんも雑煮は食べないで下さい!
  それは殺人食物と名高いMOCHIじゃないですか!」
槍「何を申すかフラット殿。餅が入っておらぬ雑煮など出そうもんなら膳ひっくり返して蜻蛉墜しでござるぞ」
ア「セイバーが食べていたオダンゴと言うものは美味しいのかしら?」
メ「あれは貧しき平民の食べ物です。お嬢様のような高貴な御方が口にするに値する品ではございません」
弓「新年早々燕二死ね! さあ此処へはよ来んかい!」
ソ「キャスターももうよかろう? 見苦しい出番増やしはやめて忠誠を誓ったマスターの所へ来い」
∨「新年早々亡霊どもに目をつけられるとは可哀想な連中だなあの二人も……」
弓「なーにが可哀想なものか。そもそもマスターとサーヴァントは一心同体の運命共同体じゃろうが。抜け駆けなど許されんわい」
槍「真っ先にその抜け駆けをしようとして見事失敗しおったくせに(ボソッ」
ソ「そうだよく言ったぞアーチャー! まったくその通りだ! そもそも下僕が主人よりもry」
狂「おーおー負け犬どもがキャンキャンと吼えてやがるのが笑えるぜ」
雨「流石バーサーカー! 敗者になってもその態度くーる過ぎるぅぅぅう!」
弓「そういう貴様じゃって魔剣だけが現世に残っとる状況になんとも思わんのかい!
  まあ尤も既に負けそうじゃがな貴様の遺留品は。プッ、ぶわーはっはっは遺留品とは上手い事言ったぞワシ!」
ア「遺品……クスクス」
メ「ああっ遺品というフレーズがお嬢様の笑いのツボに!?」
雨「ちょ遺留品とか言うなこの昆布王! 英雄海物語め! バーサーカーに謝って、すぐ謝って!」
狂「ハァ? 馬鹿かテメー? これからおれのティルフィングは逆転してアイツらムカつく糞虫どもをグッチャグチャにすンだよ」
ソ「それは無理だろう。そのグッチャグチャにする相手がどこかへ消えたではないか。
  いやそれ以前の問題か、セイバー相手には実力不足だろうアレ。なにせ奴が本気になった途端一発撃沈だったからな」
狂「………それは、なんだ、ほら……チッ! もっと踏ん張りやがれよティルのヤロウ!
  たかがパラディン風情に遅れを取りやがって情けねえ! つか次回でセイバーの野郎がティルの元に戻って再戦すンだよ」
槍「いやぁ流石に消失した綾香殿を放っておいて悪霊退治なんてやらかした日には拙者の霊魂が憑依合体で天変地異でござるぞ」
F「なるほど、つまり場外乱入でコブラツイストってことですね!?」
弓「やっぱ並以下のバーサーカーじゃセイバー相手は荷が重過ぎたか」
ア「我らアインツベルンが招来したサーヴァントの実力を以てすれば貴方達を含むその辺の有象無象の英霊など敵ですらなくてよ」
雨「あんたらその有象無象の英霊とそのマスターの謀略で死んだじゃん……」
ア「私はこの戦いで一番恐ろしいのは敵ではなくアホな味方だと学びました」
メ「お嬢様大変ご立派になられましたね…!(感涙」

∨「さてと、各陣営は着々と終幕へ向けての準備に入っているな。
  目下最大の障害であるライダーへの対抗策として遠坂陣営と同盟を結んだ沙条陣営。
  工房の建設不可という切り札不足という状況を解決する為にティルフィングの回収に向かう間桐陣営。
  そして動向がまだ不明のゲドゥ陣営がどう動くかだな。
  NPCキャラ的な立ち位置だった維新志士の一団は幕府陣営に一足遅れてこれで全滅。あと残るはティルフィングだけか。
  沙条陣営も現在トラブってるようだから下手をすると次回に辺りにでも新しい転入生が来るかもしれんな」
槍「まさかフラグを立てようとする気でござるか教授殿! 危なっかしい二人がもしも死んだらどうするでござるよ?!」
F「しかし殺人鬼の正体はまあ皆さんが予想通りのものでしたねえ。もっと捻った方が良くなかったですか?」
∨「無茶を言うんじゃないフラット。ASは純正英雄しかいないのにそんなダークサイドな真似出来る訳ないだろう。
  セイバーは性格的に無理。ファイターとキャスターはその経歴的に殺戮行為なんてありえない。
  ライダーは神と王と法の名の下でしか大量粛清はしない。というかパーサーカーですらこんな虐殺はしないぞ」
F「へ?」
槍「なんと?」
弓「ハハッまたまたふかしおってマスター∨め!」
雨「え?!」
狂「驚いてンじゃねえよこのボケどもが! 特にえ!?とか抜かしてるテメーだテメー!
  おれはテメェと違って無駄な殺しはやらねえ主義なんだよ!」
V「……一応言っておくがヘイドレクは歴とした純正の英雄なんだぞ? 別に殺人鬼でもなければ虐殺者でも反英雄でもない」
ソ「意外だな。私も今までずっと主従共に似た者同士かと思っていたが?」
狂「寝言は寝て言え二流貴族の坊ちゃんが。おれは戦士だ。人間を殺すのは戦場と戦争の中だけだ」
雨「だ、だったらなおさら冬木は戦争なう!」
弓「まあそれはそうじゃな。この港町は戦時下も戦時下、いや下手な戦よりも相当危険な戦場じゃわな。そこんとこはどうよ」
狂「そういうテメーは戦争ならば仕方ねえと虐殺行為に走る趣味でもあンのか?」
弓「んなもんあるかい悪趣味な! 戦で犠牲者が出るのは避けようのない現実じゃが自分から死体を増やす趣味はないわ!」
狂「同感だな。それが真っ当な脳味噌をした戦士の思考だ。
  もし仮に殺すにしても不必要な分は殺さねえし侵さねえし犯らねえよ。戦争に勝って他国を蹂躙する場合でもそうだ」
槍「ほう、それがおぬしの戦での規則というやつか」
狂「つまりトラノスケ、テメーらみたいな脳味噌イカレ煮込み共と一緒にすンなってこった。
  もし次にこのおれをこいつら糞どもと同じ穴の狢に数えやがったらそいつの首を落としてやるから覚悟しな」
F「あ、あの……ヘイドレクさん? 問答無用の殺人はいけないんじゃないのでしょうか!?」
狂「おいおい小僧知らねえのか? おれら北欧の戦士は面子が命なんだぜ。嘗められたら戦士や傭兵としての価値が下がるのさ。
  だからおれたち北欧戦士は己の面子や沽券の為に命を賭けたり相手をぶっ殺したりするのは当然なんだぞククッ!」
F「似た者なんて口が裂けても言いません!」
ソ「う、うむ、私もそうしよう。他人の悪口など下品で貴族にあるまじき行為だからな(コクコク)」
V「この教室での殺し合いは私に迷惑がかかるからやめておけ? どうしても殺りたいのなら教室の外でやってくれ。
  私の平穏の邪魔をしない限り好きなだけ殺し合えばいい。さてと、今回はここまでだ。それでは次回また会おう諸君」

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最終更新:2014年11月26日 01:07