Fate/Another Servant HeavensFeel 2 第2話

──────Casters Side──────

「よし。解析終了。ではマスター移動しましょう」
 魔術でこの土地の霊脈の解析を終えたキャスターが移動を促す。
「もう終わったのか?思ったより早かったな」
 彼らはあれから山中から移動せずに今までずっと今後の方針と対策のための行動を執っていた。

 刻印の移植後、どこか適当な場所に陣取ろう。と言うマスターの意見をやんわりと否定し陣地を置く場所は慎重に決めるべきだとキャスター助言した。
 それからキャスターは手早く偵察用の使い魔を作成し、この地の霊脈の調査を開始。
 マナが一定値以上あると判明したポイントへ使い魔を送るという作業を複数の使い魔で同時進行すること一時間。
 こうしてお目当ての最高のポイントが見つかったというわけである。

「やはり陣取るのならこちら側の町の郊外にある丘の上が拠点としてはベストですね」
「この地の霊脈の中では一級品ってあれか?位で言えばトオサカの屋敷や向こうの町の郊外にある寺の方が上なんだろう?」
「確かに位はあちらの方が上のようですが、まさか敵マスターの工房のある場所にボクの工房を建てに行く訳にもいきません。
 寺にしてもサーヴァントにとって都合の悪い結界が張ってあるようです。
 人目も無いという点も考慮すればやはり郊外の丘が一番良いという結論になりますね」

 キャスターはソフィアリに探索の魔術で知りえた情報を分析し丁寧に説明していく。

「わかった。ならそこに移動するか。っとその前に確認したいことがあるキャスター。この移植した魔術刻印はどの程度持続するんだ?」
「刻印ですか?そうですねこの世界の書がある限り半永久的に、と言いたいですがボクが存命している間と言った方がいいでしょうね」

 ───そうか。と短く呟くと彼はニタァとした笑みを浮かべ、 

「ではキャスターに令呪を以って命じよう───この日より一生私に従え───!」

 自身に宿った令呪の力を解放した───!

「────なっ!!?」
 ソフィアリの令呪が一画一瞬だけ輝きを発し、膨大な魔力を霧散させながら消滅した。

「く、くく。あははははははははははははははははは!これで刻印効果切れの心配をする必要も無くなった!ふはははははは!」
 今日はなんて素晴らしい日だろうか。
 こんなに最高に爽快で愉快な気分になったのは生まれて初めてかもしれない───!

 一人高笑いしながら悦に入るソフィアリとは対称的にキャスターはいつもの調子で、

「────ふぅ。浮かれているところ申し訳ないけどマスター。今の令呪は殆ど効果は無いですよ?」

 穏やかな口調のまま、高笑いする魔術師の行為の無意味さを口にした。

「なっ!?何故だ!令呪はサーヴァントを従わせる絶対命令権ではないのか!?」
「概要は正しいけど内容が正しくなかった。
 令呪による命令は単一命令になるほど強制力や効力を発揮しますが、長く曖昧な命令になるほど強制力や効力が落ちるものなのです。
 ですから先のように一生服従なんて命令は無駄以外の何者でもない。よほどレベル違いのマスターでもない限り強制力なんて皆無ということになります」
「あ……う。無意味、だって?」
「ええ。無意味です。実際にボクに掛かってる強制力はありません。
 精々、たまにはマスターの話を聞き入れようかなという心変わり程度のもののようです。
 さっきも言いましたがよほどのレベルのマスターなら同じ命令でひょっとすると、
 ランクが一つばかり落ちる程の強制力を発揮させられるかもしれませんが、マスターのかけた令呪は殆ど効果はありませんでした」

 キャスターはそう自身の状態を説明し終えると、今度は逆に令呪の助言をし始めた。

「今後令呪を使う時は必ず単一の命令にしてください。
 でないと令呪の力を効率良く発揮出来無い。しかしマスター、今のある意味自殺行為ですよ?
 ボク以外のサーヴァントにさっきのような令呪を掛けようとしたら下手をすれば見限られてもおかしくありません」
「く、───お前は、見限らないというのか?」
「当然でしょう?ボクのマスターは貴方ですし、何より人は過ちを犯すものなのです。それは神もちゃんと理解してくれている」

 そう言ってキャスターは神の教えを説く神の使いのように柔らかく微笑を浮かべると霊体化した。

「さあ、早く郊外の丘に行きましょうマスター?陣地の作成は出来るだけ早い方が良い。
 ボクは元々戦闘には特化していませんし、何より古い時代の英雄であるサーヴァントは元から高い魔術抵抗力を持っている。
 その上クラスによっては対魔力スキルまでもが備わっている。キャスタークラスというのはその時点で聖杯戦争の戦いでは不利なクラスなんです。
 キャスターのクラススキルである陣地作成を有効に利用していかないと聖杯戦争では勝負にもならないでしょう」

 そう言うとキャスターはさあ行きましょう。と促す。
 どこか釈然としない心持ちのまま、ソフィアリは郊外の丘の上を目指し山を降り始めるのだった。






──────Riders Side──────

「あの丘に陣地を設置しなくてよかったのか?」
「ああ、構わぬ。確かにあの丘は霊格的に非常に優れた土地ではあるが………些か優れすぎている。
 あの分だと他のマスターや最悪キャスターが根を張る可能性がある。そんな危険を伴う場所に俺様の宝具を設置するわけにはいかぬ。
 人間程度の魔術師ならば問題は無いがキャスターを侮って掛かると大抵のサーヴァントは足元を掬われる結果になるからな」

 ───ふむ、ならばもしも次回にこの儀式があるのならあの丘に拠点を置くように聖堂教会に報告を入れておくか。

 深夜の町を歩きながら牧師は霊体化したライダーと話をしていた。

「なるほど。当然、戦の定石は心得ていると言うことか」
「そういうことだ、このラメセスの宝具と陣地作成スキルを有効活用するならば、もっと見つかり難いところでないと意味が無い」

 召喚が終え、再契約を完了させた後、ライダーはすぐさま移動することを提案した。
 ”移動だと?何故だライダー?”
 ”くく、何故も何もあるまい牧師。戦争をするならばまずは足場固めが先であろう?”

 そうしてすぐさまその場から移動した彼らは町に降り拠点探しに勤しんでいた。
 代行者七人も無言で牧師の後に付いて来ている。

「あの家屋はどうだ?」
 そう言って牧師は一軒の小さな家屋を指差した。
「断る」
「───なに?」
「断ると言ったのだ。なぜこのラメセスがあんな豚小屋のような狭い家を拠点にせねばならん?」
「そんなことを言っている場合では無いだろうライダー。大体貴様は霊体化しているから関係あるまい」
「断る断る断る!嫌だ却下だ拒否だ、俺様の家はもっと大きくないと認めんぞ。貴様はファラオに豚小屋に住めと抜かすかうつけがっ!」
「なら野宿でもするのか?私は慣れているし別に構わんが?」
「ぼ、牧師!貴様それでも俺様のマスターか!?否、それ以前に貴様それでも文明人か!信じられんなこの原人め!」
「そういうお前は真正の古代人だろう……」

 ───最初から頭が痛い。一体どこに住居に文句をつけるサーヴァントがいるというのだ?

「そもそも野宿など体に悪い。いいだろう牧師、貴様がそのつもりだと言うのならこちらにも考えが───」
「わかった、判ったから駄々をこねるな。お前の言う通りもう少しマシな家屋を探す。それでいいのだろう?」
「うむ、苦しゅうない。それでこそ俺様のマスターだ、ハッハッハ」
「となると河の向こう側か……確かトオサカやマトウが根を下ろしているのもあちら側の町だったな?」
「はい、事前の調べによると」

 その後、牧師と女代行者は二三言の言葉を交わし河の向こう側の町へ歩き出した。



 ───しばらくして。

「うむ、此処ならよいぞ」
 と散々歩いた末に決めた日本家屋を前に踏ん反り返るご機嫌なファラオ(馬鹿)が一人。
 そしてサーヴァントに振り回されて少し不機嫌な牧師(外道)が一人。
「ここでいいんだな、ライダー?」

 彼らが今居るのは遠坂家や間桐家の反対側の坂に位置するとある日本家屋である。
 てっきり建物の大きさだけで決めるものだと思っていた牧師だが、意外なことにライダーは建物の大きさ、地脈、
 部屋の造り、敷地の広さを、総合的に考えて一番大きな屋敷ではなく、ある程度大きいこの屋敷を選んだ。

「ああ、問題無い。広さも我慢出来る程度はあるし、襲撃時用の退路もある、入り組んだ内部は攻め難く守り易い」
「ふん。少しは考えていたと言う事か。ではライダー、それにお前たちもここで少し待っていろ」
 そう言うと牧師は一人寝静まった屋敷の中に入っていった。

 ───数分後。
 中で寝ていたはずの住人たちはふらふらとした足取りのまま両手に荷物を持ってどこかへ歩いて行ってしまった。

「マスター、今のはなんだ?」
「大した事は無い。暗示で今から旅行に行って貰っただけだ。あんな異教徒なら殺しても構わなかったのだが死体の処理も面倒だからな」
「牧師。貴様に一つ確認しておきたいことがあるが、貴様魔術師か?」
「いや、私は教会に仕える身だ。魔術など身に着けているはずも無い。私が使ったのはあくまで秘蹟だ」
「ふん詭弁だな、魔術も秘蹟も同じ神秘であり奇跡であることには変わるまい。
 だがまあいいさ。どうやらお前は魔術回路自体はあるようだからな、多くは無いが魔力供給も特に問題も無く行われている」
「それは結構なことた。魔力供給が足りない時には言え。適当に異教徒どもを贄に用意してやろう」

 ライダーは実体化して先に屋敷の中に入っていく。

「さて、マスター。拠点も決まった。早速だがこのラメセスの結界と宝具の配置場所を探しにゆくぞ。戦いは既に始まっているのだ」

 先行するライダーは牧師に振り返ると、戦いを前に滾るような笑みを浮かべていた。







──────Sabers Side──────

 ───冬木の町よりほんの僅かばかり離れたアインツベルンの館。

 ドドドドドドドドドドと物凄い勢いで広い廊下を疾走するアホが一人。

「マスターーーーーーーーーーー!!」
「なんですセイバー?騒騒しい」
「よっ!マスターの召使い。マスターはどこにいるか知らないか?」
「お嬢様なら今は寝室で御休みになっています。お嬢様になんの用件があるのですセイバー?」
「へっへっへ~。さっき森の中でうさぎを捕まえたからマスターにやるんだ。ふふんこいつ可愛いだろう!?」
「今すぐに棄ててらっしゃい」
「えーーーーーーーーっ!!?せ、折角マスターの為に捕まえてきたのに!」
「お黙りなさい。お嬢様の為を何かを献上するのなら、そんな獣臭い畜生ではなく敵サーヴァントの首級を持って来たらどうです?」
「む、しかしな召使い。まだ聖杯戦争は始まっていない。
 七人集まる前に始めたところで意味は無いし、何よりオレはそんな不意打ちみたいな卑怯な真似をするつもりは毛頭無い」

 ───溜息。まったく参る。
 このサーヴァントは召喚されてからというもの、暇があれば森に出て兎や鳥を追い掛け回したり、館にある食料を漁ったりしたと思えば、
 今の様に卑怯な真似はしないとキッパリ言い捨てる騎士道精神に溢れた一面を覗かせたりするのだ。

「なら結構です。くれぐれも御休みになっているお嬢様の邪魔はしないように、いいですね?」
 セイバーはちぇっ、と言いながらどこから漁ってきたのかシャクシャクと林檎を齧る。
「大体セイバー、貴方はサーヴァントでしょう。ならお嬢様に負担を掛けないように普段は霊体化していなさい」
「霊体のままでは林檎が食えないじゃないか」
「そんなものは知りません、そもそも栄養補給なんてサーヴァントには無意味でしょう」
「おっ!?トンビじゃねーか!オラー待てー!!」
 侍女の小言を完璧なまでに右から上へと放り投げ、ローランは館の外へ出て行った。
「…………はぁ、まったく……」



───────Interlude───────

 ───夢を見る。
 否、これは夢ではあるまい。
 ホムンクルスだからなのか彼女は夢など見ない。
 だからこれは夢ではなく記憶、もしくは記録だ。
 どうやら彼の中に知らない間に迷い込んでいたらしい。

 そうアインツベルンが契約している一人の騎士の記憶に───。


 彼の周りにはいつも色々な人が居た。
 子供の頃も、彼の大帝のお気に入りとなり騎士となった時も、そして彼が息絶えるその瞬間であっても───。


 ───親友の屋敷にて。

「ローラン様ぁ!」
「やあ!オード!今日も可愛い───ぶが!?」
 何かをスコーン!っとぶつけられてすっ転ぶローランと彼の名を呼びながら駆け寄って来るオード。
「痛っつつ……どこのどいつだぁ!?」
「俺だが?」
「兄さま?」
「オ、オリヴィエ?!!お前なんて事しやがる!こんな薪を投げられたら痛いだろう!!」
「お前がオードに妙なことをしようとするからだぞ?」
「うっ、みみ妙なことって───なんのことかな?」
「しようとしただろ?───例えば、そうだな。抱きついてチューとかな」
 まあ!と口元に手を当て上品に笑うオード。
「い、いや別にそんな事は、ない……ぞ?うん。ちょっとスキンシップを図ろうとしただけだ。うん」
 そう言って目線は明後日の方向を向けながらも手はオードの方に伸ばし───。
 ペシッ!っとその手をオリヴィエにはたき落された。

「──────」
「──────」

 ローランはもう一度オードに手を伸ばす。
 またしてもペシッっとオリヴィエの手にはたき落される。

「──────おいオリヴィエ?」
「──────なんだローラン?」

 無言で二人見詰め合うこと十数秒。

 シュシュシュシュ!!ペシペシペシペシ!
 オードに伸びる手とローランの手を叩き落とす兄の手が鬩ぎ合う。

 ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!!パシパシパシッペペペシッ!
「ウガァァアーーー!婚約者なんだからちょっとくらい良いじゃねえかぁ!
 お前新しく弟になるオレになんか恨みでもあるのかー!」
「ええいちょっとって何だ!何をする気だ!そういう事はちゃんと婚姻してからだっ!!
 お前こそ正式に結ばれるまでは清き関係のままでいて欲しいと言う新たな兄になる俺の気持ちが判らないのかー!」

 ふぬわぁぁぁあああ!
 ぬわーーーーーっ!!
 取っ組み合いが始まる。
 そんなじゃれ合う二人の姿をオードは幸せそうな目で見守っていた。



 ───王城にて。

「どうしたローラン口笛なんか吹いて?」
「ふふ、ご機嫌ですねローラン殿。何か良いことでもありましたか?」
 城の廊下でテュルパンとルノーが声を掛ける。
「お、大司教にルノーじゃん、オッス。いやさっきな城下町に飯食いに言ったんだけど飯屋の夫婦がサービスしてくれてさー」
 おかげで満腹なんだよ。と満面の笑みを零しながら言った。
「なるほど、確かにローラン殿は城下の者にも人気がありますからね」
「くそぅ、そういうことなら声くらい掛けろよな。お前ばっかりズルいぞ」
「ふふん、なら今度また行く時はルノーにも声をかけるさ。
 あそうだ!大司教はこの後時間ある?あるんだったらまた聖書の話を聞かせて欲しいんだけど」

「おやおや、相変わらず熱心ですねローラン殿は。しかしすいません。午後は王に呼び出されているので」
「あーそっか、それはしょうがないな。じゃあまた今度にする」
 ではまた時間がある時に来てください。と言うとテュルパン大司教はシャルルマーニュ王の許へ向かった。
「じゃあ大司教にフラレたローランよ。午後は俺と剣の勝負をしないか?」
「ルノーと?へえ、いいぜやろうか」
 二人はニッっと笑うと仲良く鍛錬場へ行くのだった。



 ───鍛錬場にて。

「ごあっ!」
 ローランの一撃で見事に宙を舞うアストルフォ。
「あっちゃ~……あははは、相変わらず弱っちいなアストルフォ!」
「まったくだ。もうちょい頑張ろうぜアストルフォよ?」
 ルノーも腕を組んでうんうんとローランに同意する。
「────痛い。これでもね僕だって強い方なんだよローラン?」
「でもオレアストルフォが誰かに勝ったとこ見たこと無いぞ?」
「うんうん。いつもローランや俺やオリヴィエに転がされてるな」
 またしても腕を組んで首をこくこくと上下させるルノー。
「それは当然だろう?大体ね……君達みたいな人間離れしたのを基準に比べれても僕らが困るよっ!」
「なにーっ?」
 そりゃあ違いないお前らは強すぎだ!と一斉に笑う騎士たちの声が鍛錬場を包み込んだ。


 ───城下町にて。

「あーっ!ローラン様だ~!うわっオリヴィエ様もいるぜー!?」
 わー!っとはしゃぎながら子供たちや人々が集まって来た。
「ローランさまーわたしのうちで作ったお菓子あげるね?」
「ごきげんよう、オリヴィエ様にローラン様巡回ですか?」
「なあローラン!おれたちと遊ぼうぜ!な!な!」
「オリヴィエさま字の読み方を教えてー」
「どうだいローラン様たち。ウチの店で一杯。ついでに娘も貰ってくれんか?だっはっは!」

 たちまち人々に囲まれるローランとオリヴィエ。

「やれやれ、相変わらず人気者だなローラン」
「そういう自分だってそうだろ」
「おらー小僧どもにあんた等も俺だっているんだぞこのー!?」
 蚊帳の外に一人出されたルノーが吼えた。
 きゃーきゃーと楽しそう子供たちと街の人々が笑っていた。



 ───戦陣会議にて。

「うーむ。しかしこの作戦は危険も多い。どうされますか陛下」
 フランク国の中枢の一人ネーム大公が表情を曇らせている。
「ネーム大公、主はどう考える?それにパラディンたち、皆の意見を聞きたい」

 シャルルマーニュを筆頭にした次の戦争の為の作戦会議中である。

「はい。陛下、ですのでその作戦は変更───」
 作戦変更を進言しようとするオリヴィエの声を遮ってローランが発言する。
「大丈夫ですよネーム大公、それに王様。オリヴィエの作戦に間違いはありません。
 なんならばオレがこの作戦の最前線に立ち敵の防御布陣に穴を開けてみせましょう!オレに任せてください!」
「ローランおまえ……」
「任せろってオリヴィエ」
 ローランはオリヴィエに親指を立てて見せる
「王、では俺がローランたちの反対側から攻め込み敵の注意を引き付けましょう」
「ならば私の軍をローラン殿の軍に加えればさらにやり易くなりますね」
 ローランに続いてルノーとテュルパン大司教が名乗りを上げた。
「それでどうでしょうか王様、ネーム大公?」
 もう一度ローランは自信有り気に二人に問うた。
「………そうじゃな。ネーム大公、貴公の意見は?」
「ローランたちに任せて問題無いでしょう陛下。必ずや勝ちますよ」
 シャルル王は少しの間目を閉じて黙考する。
「よし判った。ではオリヴィエとローランを中心に布陣を敷け。その作戦で攻める。期待しておるぞ」
「「「はい!!お任せください!」」」

 会議後。
「よーっし!やるぜぇ」
「お前も無茶をしてくれるな。今度の作戦は危険度が高いと判っているのか?」
「大丈夫だって。お前の作戦で駄目だったこと無いだろ?今回も勝つさ~♪」
「ローラン殿とオリヴィエ殿が力を合わせて勝てない敵などいませんよ」
「俺たまに思うんだけどさ、そう言ってる大司教様も大概強くない?」
「まさかまさか。私などではルノー殿には敵いませんよ?」
「大司教殿も戦場では鬼と化すからな。ローランもあまり大司教殿を怒らせるような問題を起すなよ?」
「あ酷い言い草だなそれ」
「大丈夫ですよオリヴィエ殿。ローラン殿は大変素直な方ですから」
「あー素直すぎて問題になる時ってあるもんだよな?」
「それは同感だなルノー」
「???」
「はっはっは。では準備と参りましょうかローラン殿、オリヴィエ殿、ルノー殿」
「ああ」「おう」「おー!」






 ───玉座にて。

「此度はでかしたぞローラン、それにオリヴィエ」
 二人はハッ!っと地面に膝を付き最敬礼を取る。

「おぬしたちの働きのおかげでまた一つの邪神に仕える国に我等が神の救いを与える事が出来た」
「お褒めに与り光栄の極みです陛下」
「次の国も落としてみせますよ王様!期待しててください!」
「うむ、それと貴公らには褒美を用意しておる。オリヴィエそれにローランよ、受け取るがよい」

 やったなオリヴィエ!と目配せするローラン。
 それに、ああ───やったな。と今度の親友と共に打ち立てた名誉を誇らしげに笑うオリヴィエの姿があった。



 そして──────ロンスヴォーにて。

 ───────。

 ────────────。

 ───────────────────。

 彼の伝承の中で最も有名な筈の唄は、何故か霞がかかった様に何も見えてはこなかった──。







──────Fighters Side──────

 遠坂邸の居間でソファに腰を沈めながら遠坂と実体化したファイターが寛いでいた。

「いやいや、これは申し訳ない遠坂殿。サーヴァントの身である私へ気を遣わせてしまって」
「なに構わんよ。一応貴公は来賓扱いになるのだし何より私だけが飲んでいると言う状況もよろしくない」
 遠坂はそう言いながら優雅な手つきで紅茶の用意をしてゆく。
「これは私の好きな茶葉でね。さあ、飲んでみてくれ」
 二つのカップに琥珀色の液体を注ぎ、ファイターへスッと差し出した。
 では。と一言礼を言い、取りあえず一口……。
 ───なんてことだ……砂糖を入れてないというのに甘い。そして半端ではなく美味い。
 もう一口飲む。
 やっぱりウマーイ。
「……んー、これは、なんと美味な───」
 そうだろうと満足そうに頷いた後、遠坂も紅茶に口をつける。

「さて。取りあえず今後の方針を決めておこうかファイター」
「と言われても私は全面的にマスターの指示に従って行動しようかと考えているわけなのだが───遠坂殿に何か考えは?」

 ファイターの問い掛けに遠坂は腕を組んで少し黙考する。

「───そうだな。とりあえず現状での私達の戦力を確認すると戦闘自体は全く問題は無いだろう。
 ファイターの能力、宝具ともに非常に強力だ。仮に敵サーヴァントと突然遭遇して戦闘になってもまず負けはしないだろう」

 ファイターは遠坂の言葉を肯定も否定もせず黙して聴いている。

「となると後は戦闘以外での闘争だが。
 町の監視などは私の使い魔でも可能だが───キャスターと言う格上が今回の聖杯戦争にいる可能性を考慮するとあまり上策ではないだろうな」
「ならばあとはやはり戦闘力にモノを言わせた釣りかな?」
「まあ、その手でも良いのだが釣った奴以外のマスターにこちらの手の内を見せるのもあまり面白くない。
 それにキャスターと同様にアサシンのサーヴァントが召喚されている可能性も否定できない。
 もしアサシンがいるのなら迂闊に外を出歩くのは得策ではない、よって序盤は後手に回ることにしようと考えている」

 遠坂の言葉にファイターが少し意外そうな顔をする。

「遠坂殿にしては意外に消極的な戦略なのだな?私はもっとマスターはやられる前に叩くタイプだと思っていたが」
 すると今度は遠坂が苦笑を浮かべる番となった。
「いや、確かに君の私に対する推察は概ね当たっているよ。だがまあ聖杯戦争は自分達の正体や力を隠しておいた方が断然有利だ。
 案外序盤は慎重な行動をするくらいがちょうど良いかもしれん。
 それにな、聖杯戦争と言うのは単純に見えて実は意外と複雑な構造をしている」
「複雑な構造?」
 ファイターが首を傾げる。
 聖杯戦争というのは自分たち以外のサーヴァントとマスターを排除すれば良いのでは無かったか?

「聖杯戦争という闘争は単に自分たち以外のサーヴァントとマスターを排除すれば良いと言うものではない。
 ソレはあくまで聖杯獲得の最低条件に過ぎない。聖杯戦争はあくまで聖杯降霊儀式なのだから聖杯を降霊させて初めて成功する。
 つまり聖杯戦争を制したいのなら聖杯を手に入れる必要性が生じて来る、というわけだ」

 腕を組んだままファイターは力強く断言する。

「ふむ、マスター、───すまないのだが、私ではよく理解出来ないようだ……」

「今からちゃんとお前にも判るように説明する。要するに聖杯戦争の勝者になる為には三つの手順を踏まなくては駄目だと言う話だ」
「三つの手順?」
「ああ。まず一つ目が先も言ったが自分たち以外のサーヴァントとマスターの排除だ。
 そして二つ目がアインツベルンが用意している聖杯の器の入手。そして最後の三つ目が聖杯を降霊させる降霊地の確保。
 とは言っても三つ目の降霊地の確保は既に出来ているも同然なのだがな」

「既に確保しているとは?」
「言葉通りの意味だファイター。冬木にある聖杯の降霊地の一つはこの遠坂邸なのだ。他は柳洞寺と橋の向こうの町の郊外にある丘の上だな。
 前回の降霊地が柳洞寺だったらしいから今回はあそこは門の力が落ちているはずだ。だから除外して構わない。
 となると消去法でうちか向こうの郊外の丘という事になる」

 ついでに言えば郊外の丘よりも我が土地の方が霊格は上だ。と遠坂は付け加えた。

「なるほど。ではアインツベルンが用意する聖杯の器の入手とは?」
「遠坂、アインツベルン、マキリの我々御三家にはそれぞれ役割がある。
 遠坂が土地と英霊を降霊させる技術を提供し、アインツベルンが聖杯を降霊させるための空の器を用意し、
 マキリがサーヴァントを律する令呪の技術を提供して作られたのが聖杯戦争のシステムの核だ。
 ということは当然この御三家には他の外来のマスターには無い特権が与えられているというわけなのだよ」

 そういうと彼は意味深に笑って見せた。

「その特権が、遠坂の降霊地の確保であり、アインツベルンの空の聖杯の確保であったりする。
 マキリも初めの頃は郊外の丘の降霊地を確保していたのだが、あそこの家系と丘の霊脈の相性が良くなかったようでこちらに移って来た。
 もっとも、マキリのご老体には前回の戦いを直接見ていたという確かな情報源があるから特権と言えばこれは十分特権だな」

 説明が一段落すると遠坂は少しだけ冷めた紅茶を飲み干した。
 ───ふむ、大体の聖杯戦争の概要はわかった。要するに本当にこれは「戦争」なのだ。
 マスターがサーヴァントを使って次元違いの殺し合いをするから戦争なのではない。
 この戦いは情報戦から始まり、遭遇戦や奇襲、迎撃で敵の数を減らしつつ、必要な道具を敵から奪い、陣地の確保もしなければならない。
 ───まさに、戦争としか形容しようの無いゲーム、それが聖杯戦争なのだ────。 

「なるほどなるほど。これは思ったよりも───歯応えのありそうな戦いだなマスター?」
 ファイターは幾多の怪物や敵を打ち倒してきた者だけが浮かべられる壮烈な笑みでマスターに笑いかける。
「そういうことだ。だから最初に言っただろう?この熾烈な競い合いを制する為に貴公の力がどうしても必要だったのだと」
 一方の遠坂は肩を竦めて、正直当てにしている。といった風な苦笑で返した。

「ああ、ならば期待にはキッチリ応えるとしよう。ではマスター今後の方針は───」
「───まずは敵のマスターたちの動きを観察し、状況に応じて動く。でいくぞ」

 ファイターは了解した。と答えると残りの紅茶を飲み干し、英気を養う為にとマスターに照れ臭そうに紅茶の御代わりをお願いするのだった。








──────Archers Side──────

 ─────アーチャーを召喚して二日、つまり雨生がバーサーカーを召喚する前日。

 闇夜の町を一人歩く。
 アーチャーは霊体化させたままの状態で傍に付かせている。
 民家は皆が皆とうに寝静まり、辺りを照らす光は綺麗な月明かりだけだった。

 間桐はアーチャーを召喚してからきっかり丸一日はまともに動けなかった。
 そんな彼の無様さを笑いながら、臓碩はどうもサーヴァントが既に三体が召喚されているらしいとの話をした。
 臓碩の情報がどこまで信用できるかは判らないが、あれでも前回の戦いを直接見てきた妖怪爺。
 全くの見当外れと言うことも無い筈だ。となるともう聖杯戦争の開幕は間近に迫っていると間桐は判断した。
 ならば今日のうちに少しでも情報を集めておかなければならない。昨日出遅れた分を取り戻さなければ。

「おいマスター」
「なんだアーチャー」
「まだ七人集まっておらぬのだろう?だったら───」

 アーチャーの問いを最後まで言わさずに、間桐は苛立たしげにアーチャーに向けていた視線を元に戻して黙殺した。
「何をイラついとるんじゃ、なんじゃい貴様もしかして召喚早々に気絶したことを気にしておるか?」
「───っ!!なんだよお前、気絶したことがそんなに滑稽か!!?」
 間桐の怒鳴り声が夜の町に木霊する。

「おら夜中なんだから静かにしろ。もし敵がいたら今のは下手すると命取りだぞ?」
 怒りでギリっと歯が鳴る。
「いいから落ち着け。そもそもワシは貴様が気絶したことなぞどうとも思っておらんわ。あんなのどのマスターでも普通になる事だ。
 ……まったくマスターにも困ったもんだ。妙なところでプライドが高いと言うかのう」

「ふん!糞爺は嘲笑ってやがっただろうが!」
「あの腐れ爺は無視しておけ。ありゃ性根どころか精神が腐ってやがるわい。知識はあるようだがあの陰湿な性格はワシは好かん」
 ケッ!っと吐き棄てるアーチャー。
「ふん。大体俺はお前のその言葉遣いも気に入らないんだ。なんだそのどこぞの糞爺っぽい、つか見た目の割りに妙に爺臭い口調は」
「む、おいおいマスター。貴様いくらなんでもそういう当たり方はあるまいて。
 そもそも言葉遣いに違和感を覚えるのは生きた時代と文化の違いというやつなんじゃからしょうがないわ」
「そもそも前から思ってたんだがアーチャー、なんでお前はそんなにオッサン臭いんだよ?」

 アーチャーは主の問いに少し困ったような顔をすると、さも面倒臭そうに説明しだした。

「あー細かく説明するのも面倒じゃから手っ取り早く説明するぞ?ワシらの社会もな年功序列なんだ。
 今と違って大昔は年を食ってる老人の方が知識と経験があったからな、それが重宝されたというわけだな。
 だがワシらのような若いのも童扱いより一人前の男として扱われたいと思うのが当然であろう?
 アウラクでは子供をきちんと育てきって一人前とされとる。
 ということは当然、妻を娶り子を生して育てていく内に自然と一人前の男……つまり父親として相応しい口調にもなってゆく、と言うわけだな。
 ……というかな、戦国時代の男はどいつもこいつも骨太のオッサンだぞ!」

 説明が終わると、ぬはははははー!と若々しい見た目とはえらく不釣合いな笑い方をするアーチャー。
「父親としてって……お前、子供がいるのか?」
「まあな、娘がおったわ。と言っても当然もう死んどるがな」
 さっきまでのひょうきんな声音とは違い、今度のアーチャーの声はずいぶんと素っ気無かった。

「でマスター、話を戻すがワシらは何をやっとるんじゃ?」
「見て判らないのかよ。情報集めだ情報集め。俺は使い魔なんかを使った監視や探索は得意じゃない。
 となると自分の足を使って何か情報を探すしかないだろうが」
「ん~まあ確かにそれは正論なんだがのう……」

 その方法は正直あまりよろしくない。

「なんだよアーチャー、サーヴァントの癖にマスターの方針に文句があるって言うのかよ?」
「文句と言うよりは助言じゃ助言。
 マスターにゃワシの能力値なんかが透視えておるとは思うんだが───ハッキリ言わせて貰うとワシは遭遇戦は不得手だ」
「不得手────だって?」
「ああそりゃそうじゃろう、なにせワシは弓兵だぞ?
 そりゃ中には弓兵の癖に剣士の真似事など出来てあまつさえ大英雄とも渡り合える実力……なんてフザケタ英雄も万に一くらいの確率なら居るのかもしれん。
 がだ、ワシは到って普通の弓兵だ。まともに剣士や槍兵相手に接近戦など出来ぬわ」
「だったら接近戦なんかで戦わなければ良いだけだろう。弓兵ってのは普通距離を取りながら戦うもんだ」
「ふぅ、ところがどっこいそう上手くもいかんのじゃわい。マスターワシの敏捷値はいくらだ?」
 敏捷値?えっと─────。

 間桐のマスター能力ではアーチャーの敏捷は何かの幼虫で視えている。よってこれを数値に換算し直すと……。

「ランクにしてEランク───さ、最低ランクじゃないかこの愚図!ノロマ!これはどういうことだ!」
「そりゃワシは速さよりも堅さが売りのサーヴァントだから当然だ。多くのサーヴァントは攻性だがワシは防性寄りなのだ」
 間桐はそう説明するアーチャーのステータスをもう一度視る。
 ───耐久値を透視する。何か甲殻類のような硬そうな蟲が見える。換算するとCランク相当。
「あ本当だ。遅い分かは知らないがお前、かなり硬いんだな?」
「おうわかったか」

 確かに実際アーチャーは軽装の方が好しとさせる弓兵の割には重武装だ。
 上半身は亀の甲羅で象った鎧を着込み手甲まで付けている。

「大体にしてマスター、そもそも最低ランクだからと侮っているようだがそれは”英霊の中で”の話じゃぞ。
 マスターみたいな人間と比べると圧倒的に素早いわ!実際に瞬間的な速さだけなら十分サーヴァント相手にも通用する」
「───?じゃあ何が問題なんだよ?」
 そう、確かに実際は敏捷Eのアーチャーでも一応喰らい付けはするのだ。
「ただ敵との距離が離せん。弓兵は射撃による遠距離攻撃を頼みとするのに距離が離せなければ瞬間的な速度だけ互角であっても意味が無い。
 遭遇戦だと特にそれが顕著になるわなぁ、なにせ互いの距離が近い状態から戦闘が始まるんじゃし」
 あとは───。
 間桐は気付いていないようだが戦闘になると戦術上の問題で高確率でマスターとサーヴァントの戦闘が分断されてしまう。
 そうなるとマスターは自分一人で身を守らなければならなくなる。

「─────なら、他に何か良い案はあるのかよ?」
 間桐は不愉快そうに吐き捨てる。
「一応有るには有るが……」
 ”あんまり言いたくないわい、だってマスターが立腹するのは目に見えとるからのぅ……。”
「うーむ、まいいか───アーチャーのクラススキル単独行動を利用する。マスターは共有や共感の魔術は扱えるか?」
「当然だ。むしろその系統の魔術は得意だ」
「なら簡単だ。視覚を共有しワシが単体で偵察をやるから大人しくマスターは家に篭っていろ」
「──────!?」
 あ~あやっぱりこうなったか。見事なまでに顔が歪んどるわ。
「しかしな戦闘は戦闘、偵察は偵察とキッチリ別けぬとマスターが真っ先に死ぬぞ?」
「死ぬって俺が───か?」
「他に誰が居ると言うんじゃ?マスターだって気付いとる筈だ、ワシは通常戦闘のみで勝ち抜けるサーヴァントではないとな。
 ましてや聖杯戦争にはアサシンと言う闇討ちを得意とするサーヴァントまでおる」

 そう───いくら強力な宝具を有していたところでアン・ズオン・ウォンはマイナーな英雄だ。
 その力量はどうしても有名な一線級の英雄達には及ばない───。

「ゆえに少し慎重に行動しても良いかもしれんぞ?流石のワシもマスターを潰されたのではかなり拙いからのぅ」
 両者の間になんともいえない沈黙が漂う。
「────判った、お前の言う通り確かにマスターである俺が先に潰されるのはまずい」
 間桐は戻るぞアーチャー。と霊体化しているアーチャーに声を掛けるととっとと間桐邸に踵を返した。




 ──────、─────。

 間桐もアーチャーもお互い無言で自宅を目指して歩く。

 ────────。

「おい、アーチャー。ついでに俺からも質問がある」
 ただ帰るだけではつまらなくなったのかずっと無言だった間桐がアーチャーに声を掛けた。
「ん~?なんだーマスター」
 そんな間桐になんともやる気の無い声を返すアーチャー。
「だから質問だ。そういえばお前召喚された時に言った望みは本気なのか?」
「ワシがマスターに嘘など言ったところで意味無いじゃろうが」


 ─────間桐がアーチャーを召喚した次の日に遡る。
 間桐は臓碩の指示でアーチャーにいくつかの質問をした。
 一つは彼、アン・ズオン・ウォンの戦力。そしてもう一つが聖杯への願いだ。

 戦力の方はその時の説明と今日の事も含めてなんとなく判ってきた。後は実際に戦闘をすれば話のイメージとの齟齬は埋めらる筈だ。
 だが問題は聖杯への願いの方だった。
 このアーチャーは聖杯に何を願うのかという問いに、

 ───あん?ワシの願いはそりゃあ現世にもう一度国を作ることだが────?

 などとさも当然と言った風に返してきたのだ。



「確かにそれはそうだが……理由くらいはあるんだろ?」
「当たり前だ。未練が無いような英霊が召喚に応じるわけがないからなぁ」
 そう言うとアーチャーはガハハハハハハハ!と笑ったが、それは誰の目から見ても明かな回答の拒否だった。

「で俺は理由を聞いてるんだが?」
「───貴様は本当に空気の読めない海草類だな……普通そこで訊き返すか?」
「黙れ!そういうお前こそ完全に海底に住んでるような姿だろうが!亀の甲羅に昆布みたいな頭の自分の姿を見てから抜かせ!」
「ふはははははー!ワシは元々神亀の加護を受けた英雄だから別に海草でも亀でも全然問題は無いわ、やーいこのワカメマスタ~!!」
「──────!、………!!!き、っ───貴様ぁぁぁぁああああ!!!!!!」

 眠りについた町に二匹の駄犬たちの咆哮が轟くのだった───。



 そうして───間桐邸まであと少しという場所で唐突にアーチャーが沈黙を破った。
「ふん、つまらん話だからそのうち気が向いたら教えてやる。……だがまあそうだな一つだけ教えとくか。
 ワシはな、世界との契約で英雄になった英霊なのだ───」

 間桐邸への上り坂の途中、呟かれた音はこのひょうきんな英雄には似合わない哀愁の色だった。









───────────────────────────────────Another Servant     1日目 開幕─────────

────Master Side 沙条────

 ライダーの召喚から一日後───。
 柳洞寺境内。

「つ、疲れたぁ~……」
 寺で用意された一室の縁側で綾香はすっかりくたびれてストライキ状態になった足を休ませていた。
 彼女たちが冬木入りしたのが丁度今朝である。
 そうしてやっと冬木に着いたと喜んでいた彼女の前に現れたのは、ふはははは~勿論嫌がらせさー!と言わんばかりの長大な階段だった。

「綾香、居るか?」
 さっきまで住職の部屋に篭っていた彼女の祖父がゆっくりとやってきた。
 その足取りは軽くとても長旅をし、あの長大な階段を踏破したとは思えない程の元気っぷりだ。
 そういえば着いた早々に、久しぶりじゃ!まだしぶとく生きておったか。なんて言いながら和尚さんと取っ組み合いしてたっけ。
 和尚さんも和尚さんで物凄く変わった方だったし、───きっとここの家系の人は変わり者ばかりが出るんでしょうね……。

「────お爺様は凄くお元気ですね……あの長い階段だってスイスイ登ってましたし」
「そりゃ魔術を使ってたんじゃから楽に登れるに決まっておる」

─────へ?え?え??いま……このお爺様はナントオッシャッタのかな?

 そんな可愛らしくきょとんとする孫娘をニヤニヤしながら見つめる爺さん。
「お、お爺様!わたしに常日頃から言ってたじゃないですか!むやみやたらに乱用してはいけないって!」
「カッカッ、儂は別にむやみやたらに乱用はしてはおらんからのぅ!ひょっひょっひょ!」
 な、なんて詭弁……!それだったらわたしだってあの馬鹿みたいに長い階段で魔術を使いたかったのにぃ!
「まあほらそれはそれじゃ。大体儂があの馬鹿みたいに長い階段の途中で大往生でもしたら笑うに笑えんじゃろ?」
 わっはっは!と祖父は豪快に笑っていたが綾香からしてみればそれはあまりに洒落になってないから全然笑えない。

「さて綾香」
 陽気だった声が無機質な色に変わる。
 和やかな祖父と孫の空気から、唐突に師と弟子の空気に切り替わった。
 はい。と返事して綾香は姿勢を正す。
「お前を此処に連れてきた本当の理由をちゃんと説明しておらなんだな」

───やはり思った通りだった。祖父は物見遊山や魔術修行の為に私をここに連れてきたわけじゃなかったのだ。

「お前に話したのはこの土地が魔術師が管理する土地だということだけだったはずじゃ。
 実際この地には遠坂と言う魔術協会でも結構名の知れた家系が根を張っておる。
お前も薄々は気付いていたようじゃが普通は見ず知らずの魔術師の膝元で魔術の修行なんぞやらん。
 ───それでも、あえてお前をこの冬木へ連れて来たのは経験を積ませるためなのじゃよ」

 そう淡々と語る祖父の眼はずっと真っ直ぐにわたしの目を見つめていた。
 だから……真剣なその眼が何故かわたしには───今のうちに覚悟を決めておけ。と言われた気がした───。

「け、経験───?」
「そうじゃ。もうすぐこの土地で聖杯戦争と呼ばれる魔術儀式が執り行われる」
「…………魔術儀式……聖杯戦争…」
 口から呟かれた単語は聞き覚えの全く無い単語だった。
 聖杯ってあの聖杯だろうか?
「要するにじゃ。儂がその聖杯戦争の参加者の一人ということだ。
 七人の魔術師と七騎の英霊による、あらゆる願いを叶える聖杯を賭けた殺し合い───」

 祖父は一つ一つの疑問を解く様に、丁寧に孫へ聖杯戦争の概要とルールを訊かせていく。

「えと─────つまり。わたしはお爺様のサポートをする為に連れて来られた訳ですね?」
 うむ。と祖父は頷く。
 戦力は多ければ多い方が良い。魔術師にしてもいくら半人前だろうと居ないよりは居た方が全然マシなのは確かだ。
 ────でも少しだけ緊張する。
 半人前でも魔術師なら死を容認する覚悟は出来てる。ちゃんと出来てはいるんだけど───。

「しかしまあ儂もお前を前線で戦わせる気は無いから、その辺りは安心しなさい」
 そんな孫の緊張を見て取った祖父は優しく表情を崩す。
「ぜ、前線で……戦わせ、ない?」
「当然よ。いくら魔術師とは言えお前はまだ半人前だ。マスターになるのは殆どが真っ当な魔術師じゃ。
 一人前の敵と半人前のお前では勝負にならん。そんな状況なのにも関わらずお前を前線で使うような魔術師はただの無能じゃな。
 お前には戦闘以外で儂のサポートをしてもらう」
「そ、そんな!それじゃわたしここに来た意味が───!」
「馬鹿者。儂はお前に魔術師同士の戦いを『経験』してもらう為に連れてきたのであって殺し合いをさせる為に連れてきた訳ではないわ」
 少し祖父の言葉が厳しいものに変わる。
「────」
 つまりお爺様は……わたしに魔術師同士の戦いというものを見せる為に此処へ連れてきてくれたのだ。

 実際の戦いというものは知っているか知っていないかだけでも全然受ける衝撃が違う。
 仮に戦いをしなくても戦場の空気を肌で感じるだけでも全然違うのだ。

「それにの綾香、恐らく儂らのような人間の魔術師には出番などないぞ?
 もう忘れたか?聖杯戦争と言うのは七人のマスターと七騎の英霊による闘争だ。
 英霊───サーヴァントが居る時点で儂らマスターの出番なぞほぼ無いようなものじゃよ。
 連中の力は圧倒的だ。なにせ英霊なんて連中は皆人間以上の存在、つまり神も同然ような連中だからな。
 だからこそ───この闘争で起こる戦いを識るだけでも十分な程に意味と価値があるのじゃ」

 祖父はそこで言葉を切ると、今夜から始めるから今のうちに体を休めておけ、と言い残し部屋から出て行った。


 そんな祖父の背中を黙って見送った綾香は指示通り体を休めることに専念した。






──────Riders Side──────

 夜の闇に包まれた町。
 他の家屋よりも背の高い家屋の屋根の上にその者の姿はあった。

「う~む、いくつかの設置候補地は見繕えはしたが……どこにすべきか───」

 召喚されて新しい拠点を決めてから一日半の時間を戦場となる冬木の町の下見と宝具設置地を決めるのに使っていた。
 彼のマスターである牧師はというと───。
 拠点を定めてから夜が明けるまでの間は行動を共にしたが、それ以降は自分の仕事があると言ってラメセスに任せてしまった。
「ふん、確かに霊体化して高速移動ができ、宝具の性能も把握している俺様の方が適切なのは事実ではあるが───あの牧師め」

 実際ライダーはもう既に候補地はいくつか見繕っていた。
 河川付近、海辺、拠点の庭、拠点より上方の町の頂上付近、大橋の向こう側の町の真ん中、こちら側の町にある小高い山。そして寺。

「拠点の庭もそう悪くはないが、もし拠点が見つかると同時に敵マスターに結界ごと宝具が見つかる可能性がある……」
 ───それは旨くない。俺様の宝具は出来得るだけ最後まで隠匿しておくのが最善だ。
 なれば敵マスターの拠点を探すことが常識でもある聖杯戦争においてアレを自身の周囲に設置するのは愚策か。
 幾多の戦争を経験してきたライダーの肉体が庭への設置にNOサインを出してくる。

「庭は却下だ。同様にあの拠点の上方にある坂頂上付近に設置した場合、今度は拠点の位置が逆探知される危険性があるから避けるのが無難。
 河川付近は………駄目だな、あの地点は場所的に戦場になる可能性がかなり高い。
 海辺は人目を避けると言う点では最高ではあるが、陽を出来るだけ集めると言う意味においては完璧とは言えぬか。
 そして海辺とは逆に人目を避けるという点では向こうの町は悪し……牧師の部下が潜っているようだが当てにはせぬ方が良いだろうな」

 となると残るは───。
 小高い山の上か、この地では一番大きい寺がある山か。
 あの山は確か自然霊以外に対する結界が張られていたサーヴァントにとって鬼門とも言える山だ……。

 「そうだな、もう一度あの寺を見てみるか」

 霊体化したライダーは柳洞寺へ向けて移動を始めた。







──────Archers Side──────

「うむ、収穫は無しだ。動きはまだ無いって事なんじゃろうよ」
 ここ数日間、間桐は魔術で視覚や聴覚を共感したアーチャーで偵察を行ったが全く当たりがなかった。
「どうせお前が見落としただけだろうが。昼間なんか何やってた!お前女と子供を見てただけだっただろうが!
 爺の話ではそろそろ数が揃ってる可能性があるなんて言っていたぞ」
「ぬわっはっは!!昼間は町の人間の様子を中心に見ていただけで別に綺麗な姉ちゃんを見繕っていたのではないぞ?」
「嘘付けっ!!」


 数日の偵察の結果、何の成果も上げられなかった間桐はとうとう痺れを切らしアーチャーの話を押し切って家から出てしまった。

「とりあえずもうお前に任せるのは止めだ。自分で探す」
「まったく。ワシはどうなっても知らんからな」
 霊体のままアーチャーはやれやれと肩を竦める。
「ふん、分かっていないのはお前の方じゃないのか?サーヴァント同士の戦いなんて結局のところは宝具と宝具のぶつかり合いだ」
「ほう?」
 だったら、俺が負けるわけが無いだろう。と間桐は笑う。
「───ま、確かにそうだわな。どうせ最終的にはワシの宝具が勝つのだし」
 そう、どうせ最後には自分が勝つ。アーチャーも本心からそう理解している。

 サーヴァントの言葉に満足した魔術師は再び口を閉ざし周囲の不審な気配を探して歩く。
 それに従い無言で着いて行く弓兵。


 アーチャーと間桐はゆっくりと眠りに落ちた町を回って行く───。







──────Casters Side──────

「───────」
 ソフィアリは呆然とした心持ちで目の前の状況を受け止めていた。

 彼はキャスターを召喚し、この地の地脈を調べてからキャスターと共に工房の設置場所へ向かった。
 しかし、その郊外の丘の上の工房建設地には民家どころか人が住めそうな場所すらなかったのだ。
 ソフィアリ家の者が野宿なぞ出来るか!とキャスターに工房作成を命令すると、彼は丘を下りて民家の住人に暗示をかけるとそのまま眠りについた。

 そして翌日。
 ソフィアリが目を覚ますと、動けはするものの体の変調を察した彼がその日を休息に充てたのが昨日。
 丸一日しっかり休息に使い魔力と体の調子を整えて、寄生した民家の食事を不味い不味いと思いながらもしっかり食べて丘へ向かった。

 ───で。
 キャスターに工房製作を命じてから丸二日も経過してないのにコレだった。
「い────家……?」
 ソフィアリの目の前にはどう見ても前見た時には存在しなかった物がある。
 これ、どうみても「家」、だよな……?

 その時、ガチャリと玄関ドアを開ける音と共にキャスターが姿を現した。
「やはりマスターでしたか。此処にはボクを知る者じゃないと来れない様な結界を張っていましたからそうだとは思ってましたが」
「キャ、キャスターよ、────コレは、なんだ?」
 一瞬キャスターは首を傾げたがマスターの目線で言わんとしてる事を理解すると笑いながらコレを説明した。
「ああ、コレはですね?『聖霊の家』ですよ。ボクの工房です。
 とは言ってもまだ半分程度ですので流石に完成には及びませんが寝泊りする分には十分の筈ですよ?」

 ───化け物か、こいつは───?
 魔術師が時間をかけて作り上げていく魔術要塞をこんな短期間で作ったと言うのか?
 しかもこれでまだ半分しか完成してないと?
 ………完成したら一体どれだけの力を発揮するんだこの工房は? 

 キャスターに招かれて建物の中に入る。
 ───やはり家だ。掘っ立て小屋なんかではない正真正銘の家。
「マスターには此処を拠点にしてもらいますけどよろしいですね?」
「あ、ああ……。大きいし別に構わんが………」
 それは良かった。と安心するとキャスターは奥の部屋へ入って行く。
 彼の後に着いて奥の部屋へ入る。

「ところでマスター。マスターが居ない間に占いをしたのですが、それによるとどうも今夜辺りに開幕になりそうな気配があります。
 ですからボクは今夜町へ出ようと思いますがマスターはどうします?」
「───!!?それは本当かキャスター?」
 あまりのキャスターのレベルの凄さに呆っとしていた頭が、開幕という言葉で覚醒する。
「はい。占星術は得意な魔術なんで仮に開幕とまでは行かなくとも恐らく何らかの動きがある可能性は非常に高いです」

 キャスターはそう言いながらゴソゴソと何かを取り出し始めた。

「……わかった。ならば今夜私も出ようじゃないか。───ん?キャスターなんだそれは?」
「ふふ、質問が多いマスターですね。これはゴーレムですよ、と言っても当然ただの人形ではなく魔術礼装と呼べる類の品ですが」

 そう言うとキャスターは自分の宝具である魔道書を取り出しページを開くと、

「さあ、起きなさい、我が七体の───」

 その力以って、七体の人形を目覚めさせた──────!

「───なっ!?キャスター……これは」
 小人みたいな七体の人形がゆっくりと動き出す。
「これはボクの武器の一つです。やはり真っ向からの戦闘は圧倒的に不利なので数で勝負します。さあ行きますよ銀、紅、金、蒼、翠───」

 色がこの人形達の名前なのかキャスターは七体人形全てに声をかけていく。

「ボクの八人の弟子たちを意識して作ったのものですが奇しくも七騎のサーヴァントと同じ数になりましたね。
 一応人形はもう一体あるのですけど、ボクが同時に使い魔の操作をするのは七体が限界数でした。
 スキルにより思考中枢を四つに分割し、一つの思考で二体の人形を操作・運営に充て、人形一体分の容量を予備に空けているんですよ」
「……………………」
 この魔術師はそんなことまで出来るのか……。

 唖然としているソフィアリが何を言いたいのかを察したキャスターはちょっと自慢気な台詞をはいた。
「あはは。これでも、正統派な魔術師の英霊ですから」

 そう言って魔術師の英霊は眼鏡を上げならがくすりと笑うと、七体の子供たちを引き連れ、開幕の鐘を聞くために夜の町へ向かった。







──────Sabers Side──────

 地を蹴る音を踏み鳴らしながら夜の森の中を駆け抜けていく。
「いやぁ、マスターがこういうの持っててくれて助かった。じゃないと町に着くのが夜明けになってた」
 セイバーは呑気に言いながら馬車の手綱を操る。
「聖杯戦争中の移動用にアハト様が用意してくださったものです。貴方の操馬も大したものね。馬車の操縦経験があるのですか?」
 ローランはいや乗馬はあるけど馬車は無いな。ときっぱり否定する。

 馬車に乗ったことの無い彼がこうして馬車の運転を出来るのは、彼に与えられたクラススキル「騎乗」の賜物である。
 既知、未知に問わず騎乗スキルのランク次第では如何様な乗り物でも乗りこなせるスキル。
 騎乗Bが備わった今のセイバーならきっと機械仕掛けの乗り物だって乗りこなせるだろう。



 ─────少し時間を遡る。

「マスター、少し町へ行って来る。なにかある気がする」
 とセイバーは普段とは違う真剣な表情でそんなことを口にした。
 彼のマスターがその理由を問い詰めると、彼は困った顔をしながら、

「───いや、なんか今日辺りにでも一戦始まりそうな気がする」

 なんて事をさらっと言ってのけた。
 さらに彼女が問い詰めても、理由は無い。ただなんとなくそういう気がするだけ。としか彼は言わなかった。
 セイバーが言うのは要するにただの勘だ。理屈も論理性も無い直感でしかない。

 ちょっとセイバーの話を信じられなかった彼女だが黙っていれば一人で行動しようとするサーヴァントを放っておく訳にもいかず、
 仕方なくセイバーと共に町へ向かうことにしたのが今から約一時間前のことだった。


 で現在。とてもじゃないが今から戦場に向かうとは思えない程に豪奢な馬車が森を疾走している。

 いつも饒舌なセイバーにしては珍しく口数も少ない。
 その真剣な様子からアインツベルンもついに本当に戦いが迫っているのだと予感した。







──────Fighters Side──────

 遠坂は工房へ篭り、町に配置したいくつか仕掛けを調べていた。
 彼は町への仕掛けの配置はキャスターのサーヴァントの存在の確認をしてからにしたかったが、

 ”遠坂殿、いくら後手に回る方針とは言っても戦況は常に知っていた方が良い。
  確かに遠坂殿の魔術を知られる可能性があるのはマイナスだが、それでも最新の戦況を得られるメリットは大きいかと”

 というファイターの控え目な助言を聞き届け、町の要所のみだがあまり派手にならないように、ささやかながらも見つかり難い仕掛けを施した。

 そしてその結果が今、出ている。
「これで、現在行動しているマスターが既に三人か……間桐にアインツベルン、それに正体不明の魔術師の魔力が一つか」
「マスターどうする?」
 遠坂の側で霊体化して待機しているファイターが訊く。
「─────出るぞ。もしかすると敵マスターの情報を得られるかもしれん」
 一瞬黙考した後に素早く決断をすると、外へ向かう。
 ファイターはそれに黙したまま首肯した。


 家から出る直前に遠坂殿は忘れ物があったと言い残し地下へ引き返した。
 ───そして待たされる事数分。

「ファイター、君にこれを返しておく」
 そう言って遠坂はファイターに一本の尖った剣を差し出した。
「こ、これは────ネイリング!!?何故この剣が此処に………?」 
「簡単な話だ。私はそれを触媒に君を召喚したからだ」 

 ────名剣ネイリング。
 ベーオウルフの持つ数々の武器の中で最も有名な二本の剣の内の一本。
 本来ならば二つの宝具しか持ち得ない筈のファイターが手にした有り得ざる三つ目の宝具───!

「────。これなら私は魔剣を秘したまま他のサーヴァントと互角に戦える……マスター予想外の素晴らしい助力に感謝する」
 ファイターは主に深々と礼をする。
「礼など不要だファイター。味方の援護をするのは味方として当然だろう?───さあ行くぞ」

 マスターの言葉に頷く。
 想像もしていなかった贈り物のおかけで気合と闘志は十分だ。
 マスターは戦闘は予定に無いようだが、恐らく一波乱あるだろう。
 だが問題はない。どんな相手だろうと捩じ伏せるまでだ───!



 町の闇は一刻一刻深くなっている。
 ───ついに訪れる開幕の予感を漂わせながら







────Master Side 沙条────

 ──────。

 とうに陽は暮れ地上は闇夜に包まれている。
 冬という季節のせいか今夜は物凄く冷えるようだ。

 寺の裏にある池の前に祖父が待っていた。
「うむ、来たか。こちらも丁度今し方、人払いの結界と召喚陣の布陣を終えたところじゃ」
 そういうと祖父は自分の手を見せた。
 そこには朝見た時には無かった筈の刺青みたいな紋章が刻まれている。
「お爺様……それは?」
「うむ、今朝説明したようにコレが令呪と呼ばれるサーヴァントを律するコマンドスペルのようだな」

「では始めるとしようかの、招来する英霊はこの日本で最強とも讃えられた侍じゃ」
 祖父は懐から巻物と肖像画、それに彫刻を取り出す。
「それが召喚用の触媒ですか?」
「うむ、これがその侍の事を記した巻物でこっちがその肖像画、そしてこっちが趣味だったらしい彼の彫刻作品じゃな」
「ず、ずいぶんと沢山用意したんですね……?」

 ……ちょっと流石に多すぎないこれ?

「まあ儂も初めてじゃからな。下手に触媒が足りずに失敗するよりは少し位多めに用意した方がいいと思ったわけじゃ」
 まあ用意した触媒が意味無かった、なんてよりは下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。なんて格言を実行した方が確率は上がるかな?

「では始めるかの」
 すぅっと深呼吸をして祖父は召喚を開始した───。

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 魔力が満ちてく。
 儀式に没頭する祖父の姿をただ黙って見守る。

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 儀式が進むごとに円蔵山が鳴動している気がする。

 ナニカ、とても、嫌なヨカンが───

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者───」

 もうじき召喚の儀は終わる筈なのに。

 なにも問題なく終わる筈なのに……。

 どうして?

              理解できない。

 ───なぜ?

                       でも予感だけは確かにある。



 ナゼ、ワタシハ、こんなにも、イヤナ汗をかきながら……寒気をカンジテいるノダロウ───?

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の―――ぶっ!!!!?」
「───────え??」
「あ───?っあ?」

 なんだろうアレ?
 おじいさまのおなかから……変な棒が生えてる────?

「───お、おじいさ、ま?」
「ゴホッ!!ごぶっ、ゲボッ!に、げな、あや、香───っ!!」

 血を吐きながら祖父は倒れた。腹から流れた血がその体を汚していく。
「お爺様っ!!?」
 倒れ臥した祖父に綾香が駆け寄ろうとした、そのとき。

「チッ、少々タイミングを誤ったか。完全にサーヴァントを召喚させずにマスターを殺しても意味は無いと言うに。
 我ながらつまらぬ失敗をしたものだ。───お前もそう思うであろう小娘?」

 ─────自分が先程まで感じていた悪寒の正体を否応無しに理解してしまった。

「あ、…………。あ────」
 あ駄目だ死んだ。
 体がソレを目にした瞬間に全身が理解した。

 ───否。強制的に 理 解 さ せ ら れ た 。

 ソレが帯びている魔力とこちらに向けられた冷たい視線。
 たったそれだけ。
 でもそれだけで沙条綾香に生存を諦めさせるには十分過ぎた。

「いいや。もう一度寺の様子を見てみようかと足を運べば何やら面白いことになっていてな。
 ずっと傍観していても良かったのだが───生憎と簡単に手に入る勝利は取りあえずは手にしておく性質でな」

 そう軽く言いながら男がゆっくりと近づいてくる。
「──────ぁ」
 足は思うように動かない。ただ本能が死を避けようとするあまり無様な後退を強要するだけ。

「そういうわけだ小娘、今判決が出た。残念だが……ここで死ぬがいい」 
 男の腕が綾香の首をへし折る為にユラリと上がる。
「あ、あ───ッ!」

 これで王手詰み。
 出来ることなんて今のわたしには何も無いから、せめて魔術師としての潔さを最期の抵抗にして……。

 数秒あとに来るだろう痛みに耐えるために咄嗟に目を瞑り───

「……来た、れ────てんびんの、守り手よ───!」

 ────祖父の最後の絶叫で豪風と鉄と火花が爆ぜた。

「っ───!?ちぃぃぃ!あの死に損ないめが!!」
 突如現れた大槍を持った男は気合を吐きながらあの悪魔みたいな男へ襲い掛かった。

 高速で風を切る音と、鉄と鉄のぶつかり合う音が響く。
 いつの間にか祖父の腹に突き刺さっていた槍はあの男の手元に戻っていた。

 大槍で武装した侍と同じく槍を持った悪魔が戦っている。

 ───手の動きが見えない、足捌きも見えない、そして何よりもその動きが判らない。

 何が起こったのか理解できない、理解できないけど────今が千載一遇の好機!!

 祖父に駆け寄り何とか起こそうとする。
「お爺様!!しっかりして、今しか無いです!逃げましょう!」
「あ、綾、香……」
 まだ生きてる!なら此処から逃げ切れれば治療も出来る。
「うっん…しょ!取りあえず此処から離れます」
 何とかして倒れた祖父を担ぎ上げる。
「あや、か。訊、け───」
「あとでちゃんと訊きます!訊きますから今は逃げるのが先です!」

 後方から両者の戦う気配がする。
 ならまだ逃げられる筈だ、逆に今を逃すと絶対にわたしたちはこの死地から生きては帰れない!

「いいから、訊き、なさい。お前にはすることが、あろうが。お……お前が儂の代わりに…マスターに、なるのだ」
「え───?わた、しが……マス、ター?」
「そう、だ。マスターになれるのは魔術師、だけじゃ。今、儂が死ねばランサーの令呪に、空席が出来る。
 そうなると聖杯は別の”マスター候補者”に…令呪を再配布するらしい」
「令呪の……再配布?」
「殆どの場合だと令呪は、ゴホッゴホッ!サーヴァン、トを失った元マスターに再配布さ、れる確率が高い。
 しかし。まだ聖杯戦争は始まってはおらん筈だ。……もう相方を失った組が居るとは、考え難い…。
 となると、儂以外のマスター候補になり得る魔術師は……この場に綾香、お前だけ……なんじゃ」
 祖父は咳きと共に食道から血を逆流させる。

「で、でもお爺様の手当てが!」
「ならぬ!お前は魔術師の身内である前に自身も魔術師であろうが!ならばその『覚悟』、とうに出来ておる筈じゃ。
 儂は既に致命傷……治療したところでまず、助からん。ならば己が生き残る事に全力をあげぬか馬鹿者!」

 そうして祖父はこの期に及んで覚悟を決められない孫娘を真剣に叱咤した。
 とっくに覚悟は出来ている筈だろうと。
 いつか祖父が魔術師同士の戦いで死ぬ事も、自身の死も、魔術師であろうとした瞬間から出来ている筈だと叱咤する。

「これも一つの結末。聖杯戦争に参加するということは、殺し殺されると言うことじゃ。それを覚悟で儂は此処に来た。
 マスターではないお前にはその覚悟をさせる気はなかったが……こうなってしまった以上、生き残るにしても死ぬにしても、覚悟を決めねばならん」
 祖父の声はもう囁くようなか細さしかない。

「これが、最期の儂からの教え、じゃ。儂からは、もう何も……言わん。あとは自分で、決めなさい、綾、香───可愛い孫娘よ」
「──────は────い。………はい!」
 涙を讃えながらも強く頷いた孫の頭を祖父は最期に優しく撫でる。
 そうして彼女の祖父は息を引き取った。

 それと同時に綾香の祖父に宿った令呪が消失していく。
 その時、綾香の腕にじくり、という熱い痛みが走った。
 令呪が刻まれた証とも言える、凄く熱くて痛む腕───。

 聖杯は稀にだが初めの七人以外の新たなマスターを選抜する場合が存在する。
 大抵の場合は適格者の問題でサーヴァントを失ったマスターに再配布する傾向が強い。
 だがしかし、聖杯とはより強い切なる想いに応えるものでもある。
 よってそれは偶然か、はたまた必然だったのか。
 祖父から孫へ。まるで令呪を譲渡するかのように、聖杯はここに新たなるマスターを選抜した。


「────────っ!」

 歯をこれでもかと食いしばる。
 絶対に泣かない。泣いてたまるもんか。
 お爺様が最期に残してくれたモノを守りたいのなら、絶対に泣くわけにはいかない───!

 祖父の体をそっと横たえる。
 ついに覚悟は決まった。
 逃げようとしていた両足をその場でぐっと地面を踏みしめ固定した。
 この戦いに参加する。
 生き残るにしても死ぬにしても絶対に逃げたりはしない。

 祖父であり師であった人の代わりにマスターになったのだ。
 ───なら、もう無様な姿は見せらない。

 綾香はさっきまで恐れていた怪物たちの激突を今度は両目でしっかり見届けることにした。
 マスターとして、そして沙条の魔術師として────。





───────Interlude───────

 突然現れた男は猛烈な勢いでソレを突き放ってきた。
 ライダーは咄嗟に身を捻ってなんとか避ける。
 間髪入れずにもう一発刺突が来る───!
 素早く右手に騎乗槍を戻し迎撃した。

 鋼が爆ぜる音と魔力の火花を辺りに撒き散らす。

「ぐっ───!ちぃぃぃ!あの死に損ないめが!!」
 状況的に考えると、どうやらあの死に体の爺がサーヴァントを召喚し切ったらしい。

「ふっ、シャアァァァ───!!」
 男が目測4mはあろうという鉄塊が横薙ぎに振るう。
 それを騎乗槍を縦に構えて防いだ。
 さらにもう一撃、男は先とは逆回転しながら大槍を薙いで来る。
 今度は地面に這うほどに身を低くし回避。
 しゃがんだ体勢から、男の喉元を目掛け立ち上がりながら槍を突き上げる───!
「ディヤァ!」
 しかし男はまるでライダーのこの攻撃を予見していたかのように素早く後方に跳躍した。

 両者の距離が一時的に離れる。
 ───ほぼ間違いない、この敏捷性とあの大槍は───ランサーのサーヴァントか!!


 目前の男は再び構え、今度は深く踏み込みながら大槍を数発突き出してきた。
 ライダーも手にした槍で迎撃し、打ち下ろし、弾き、時に盾として使って身を守る。

 騎兵は見事に敵の攻撃を全弾防御した。
 ───だが。 

「───痛っづぅ!……なっ───!!?」 
 不可解なダメージがライダーの頭を混乱させる。
 ───馬鹿な!?俺様はキッチリ防御した筈だぞ!!?

 男はライダーの混乱を勝機と見るやさらに追撃をかける。
 喉、心臓、肝臓、眉間を襲う鋼の閃光。
 ライダーも騎乗槍を回転させ全弾叩き落して対抗する。

 今度の迎撃は美しい程に完璧で当たるどころか掠りもしない。
 だと言うのに─────。
「がふっ!!ぐっ…は、お───あ?」
 ライダーの肉体からは血が流れていた。

 ば、馬鹿な……。今度は間違いなく当たっていないぞ!!
 ということは、どういうことだ!?
 どうもこうもない。
 敵が英霊である時点で考えられる答えは一つ……!

 アレが、奴の宝具か────!!!??

「く、……小賢しいぞ!貴様ぁぁぁ!!!」
 憤怒と共に騎乗槍を打ち出す。

 槍が高速で打ち出されればそれを超高速で槍が撃退する。
 敵が間合いを詰めれば素早く距離を離し、追えばまた離される。
 一進一退の攻防。
 両者の戦いは既に足を止めた槍の打ち合いから、自身の足を活かした間合いの制し合いに変わっていた。

 加速してゆく残像と飛び跳ねる影。
 まるでピンボールみたいな動き。
 地上にいたと認識したらいつの間にか空中に跳び上がっている。
 地を歩く筈の生物が宙を駆けて回るその矛盾。
 見えない手で繰られているみたいな、人形遊びのようなヒトでは有り得ない動き────!

 ヒュウゥっと一呼吸分の力を溜め渾身の突きを繰り出すライダー。
 破!!と裂帛の気合でそれに大槍を合わせる男。

 そして、ガギィ!っという一際鈍い音を弾かせながら両者の戦いは小休止を迎えた。



「はぁはあはぁ。貴様ぁ……」
 睨め付けるライダー。
「ふぅ、これはまた。随分と消耗しているようでござるな?」
 それを愉しむように返す男。
 両者は一見互角な様に見えて、しかし断じて互角ではなかった。

 あの男の大槍は何故か防御しているのにダメージを受ける。
 ライダーは男の攻撃を防いでいるようで、しかしその実徐々に徐々にだがあの大槍に蝕まれていた。

「もはや訊くまでも無いが応える事を許してやろう。貴様……何のサーヴァントだ?」
「勿論ランサーのサーヴァントである。そういう御主は───ライダーでござるかな?」
「ふん。如何にも。……なるほどその出で立ち、ジパングの騎士と言われる侍とかいう種類の戦士か」
「ほう、どう見ても異国の者である御主が拙者たち武士の事を知っておるときたか。
 いやはや聖杯が我等サーヴァントに与える現代の知識というのもなかなかに凄いものでござるな」

 つまらない軽口を叩き合いながら槍兵と騎兵の頭の中は既に先の戦闘で得た情報の分析が進んでいた。

 ”───このライダーかなり手強い……!”
 ”槍兵風情がファラオである俺様に傷を負わすなど断じて許されんぞ───!”

 ────さっきの戦闘で判った事は────

「ところでその懈怠な大槍。貴様の宝具か?」
 頭の中で分析しながらもライダーは忌々しげに吐き捨てる。
 明らかに解答なぞ期待していないと言った風である。

 ”───力では遅れを取っているが速さでは拙者の方が一枚上手”
 ”スピードは奴が上だがパワーなら俺様に分がある───”

「さあのぅ?これはなんでござろうな?」
 そういうランサーも表面上は飄々としている。
「フン、大槍同様に忌々しい奴だ」

 ”────しかし拙者の『前進する大幻槍』をあれだけ受けているにも関わらずあの余力とは……。
  打たれ強さでは恐らく奴の方が優れているな。下手を打つと奴の一撃で引っくり返されかねん。それほどに奴の攻撃は重い”

 ”戦闘技能は現段階では奴の方に分がある。槍使いとしても奴の方が一枚上手か…。
  おまけにこちらの攻撃を見切られているのかそれとも俺様よりも勘が良いのか知らんがあの侍、回避力が異常だ───全く当らぬ!”

「それは失敬したなライダー?」
「なに謝罪は不要だ。これより貴様の血でその罪を償って貰うのだからな」
 先と同じ間合いを開いたままお互い武器を構え直す。

 ”しかしそれ以上にあの大槍のレンジと能力が厄介だ。何故か防いでも傷を負う上に優に4m以上はある間合い……。
  遠すぎる懐まで詰めるのはかなり至難、ならばどう攻略する───?”

 ”───現状こちらが圧倒的に有利。しかしライダーは宝具をまだ見せていない……。
  ならば、切り札を使われる前に一気に潰すのが正解。
  幸いに勘の調子がすこぶる良い、当る気がまるでせんでござる─────!!!”


「はぁぁああああああああああああああああ!!」
 ランサーはライダーよりも素早く決断を下すと敵に向かい猛然と突撃をしかけた。

 否、今度のランサーの突撃は突進などという生易しいものではなかった。
 目の前にいた筈のランサーの姿が一瞬で消失する。

「────っ!!!?」
 しまっ───ぉ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
 ライダーの体を貫く殺意に向かって全力で武器を打ち付ける。

 殺そうとする鉄と守ろうとする鉄が激突し耳障りな金属音を鳴らす。
 ごぶっという吐血音。

「がぁあ、あ!?!」
 おのれぇ槍兵がぁ!今までで一番効いたぞ───!!

 よろめくライダー。
 その絶好の隙をランサーが追い討ちをかける。

 『前進する大幻想』-蜻蛉切ーの攻撃は打ち込みの強弱によっての判定による追加ダメージ数値も変動する。
 つまり、蜻蛉切はより強く打ち込めば打ち込むほど高い追加ダメージを与えられるわけである。


「今のは良い手応えだった。……このまま倒しきるのみ─────!」
 ライダーの騎乗槍の間合いからは大きく外れた位置から大槍を突く。
 後退して大槍を何とか避けるライダー。
 その敵が後退して空いた空間を助走に使い、さらにランサーは踏み込んだ強撃を叩き付ける。
 素早く突き出された騎乗槍が大槍の穂先を逸らし致命傷を避ける。

 騎兵と槍兵の戦いは激しさを増してゆく一方だ。
 両者共に槍とスピードを武器にするサーヴァント。
 彼らは自身に備わるギアを一つ上げ、また上げ、足りなければギアをさらに上げる。
 両者の速度は留まる事を知らずまだまだ上がっていく───!


「はっ!ハッ、はぁはあ、はぁ」
 まさか最初の一戦目、なんと一戦目でここまで激しくなろうとはな……。
「ハッ!ははは、ははははっはははは!面白い。このままぶち殺してくれる槍兵!」


 穿ち、打ち払い、また突く。避け、弾き、突き、回避。
 払う、叩き落す、突く突く突く、避ける避ける避ける避ける避ける───!!

 騎兵は頭を吹き飛ばす程の一撃を打ち込み、そのまま今度は心臓を抉りにいく。
 槍兵は頭を右に逸らしライダーの初弾を避け、そのまま体を右へと流して次弾も避ける。

 ───ライダーの攻撃は当たらない。

 槍兵は右に流した体をそのままの勢いで回転させ敵の肋骨を粉砕する横薙ぎを打つ。
 騎兵は心臓攻撃を外した騎乗槍をくるっと回転させ、襲い来るランサーの薙ぎ払いを遮断する。

 ───ランサーの攻撃は届かない。

 ライダーの攻撃を悉く回避するランサー。
 ランサーの攻撃を悉く防ぎ、時に回避するライダー。

 アクション映画の早送りを見ているような理解不能の残像劇。
 人間が踏み込んで来てはいけない舞踏会。
 超速で応酬される当たらない戦い。

 両者の超高速の戦いは天秤を徐々にランサー優勢のまま傾いていき、ついに終わりを迎えた。


───────Interlude out───────


 戦いは圧倒されるほどに激烈なくせして案外一瞬で終わった。

 口の中が乾いて水分なんて微塵も無いけどそれでも頑張って生唾を飲んだ。
 次元が違う。人間とは何もかも根底部分からして違う戦い。
 祖父を殺した体中に布切れを巻き付けたあの悪魔みたいな奴は恐ろしいくらいに強い。
 でもあの侍みたいなのはそれよりもさらに強いらしい。
 いや……本当に物凄く強い。

 あの二人の動きは全く見えなかったけど、ほぼ無傷の侍と全身血だらけの男となら子供でも優劣ぐらいなら判定できる。

 あれが……あれがお爺様が召喚した日本最強の侍とも謳われる、本多忠勝───。
 徳川家きっての猛将。蜻蛉切の平八郎。
 天下三名槍の一つ、大槍蜻蛉切を装備し、数多の戦場で一番乗りと単騎駆けを実行し多くの武士に讃えられた侍大将。

「──────」
 そのまま言葉も発せずに見守っていることしか出来ない。



 ガィィィィン!という武器同士を強打させる音が響き、互いに弾かれた両者は再び距離を開いた。
「───ぬっ!」
「───っ!ふぅ。……ぬぅう、貴様槍兵の分際で───よくも、よくもここまでやってくれた………」
 ライダーの冷たい憎悪の篭った声。
 既に全身からかなり流血しているにも関らずライダーは憤怒を動力源にしっかりと大地に立っていた。 

「此処まで侮辱された以上は、俺様直々に極刑に処すところだが───」
 ライダーの殺気が急速に萎んでいく。
「───逃げるかライダー?!」
「逃げる……?ハッ!たわけ。見逃してやるのだ」
「それこそ無駄だライダー。万全の貴様ならいざ知らず、今の手負いの様では拙者からは逃れられぬ」
「ふん。そんなこと百も承知だ。故にこうするのだ侍───!」

 そう吼えるとライダーは手に持った騎乗槍を、綾香に目掛けて投擲した。

「なっ!─────チィ!」
 ランサーは素早く体を反転させ、そのままの勢いで蜻蛉切を騎乗槍へ目掛けて投げつける。
「きゃっ!!」
 しかし先に投擲された騎乗槍は綾香に届かず、ランサーに投擲された大槍によって叩き落された。

「くっ!マスターを狙うとは卑怯なり、ライダー!!」
 その絶対の隙を使い遠く離れた敵を罵倒する。
「馬鹿めが。俺様がもし本当にその気であったならば───貴様の投擲など間に合っておらんわ」
 罵倒されたライダーは特に気にした風も見せず、本心からの言葉を吐き出した。

 そう、確かに手を抜かれた。ライダーはランサーが 間に合うように 槍を投げたのだ。
 その事実をランサーが一番理解していた。

「───なんのつもりでござる?」
「先に宣告したであろう?お前は俺様が直々に「神判」を下してやると。それまでしばしの生存を許すだけだ。
 故にマスターを殺しその結果お前を消滅させる。などという簡易な処刑法は使わぬ。そんなものでは貴様の罪科は償えぬ」
 今までの中で最も強烈な殺気がランサーに向かって放たれる。
 それは凍える冷気の様な殺気では無く、まるで太陽の熱の様な灼熱の殺気だった。
 それをランサーは正面から受け止める。

「ふん。つまらぬ闘争だと侮っていたが……どうやら訂正した方が良さそうだな。
 ではさらばだ生意気な侍、この借り───高くつくぞ?」
 ライダーは最後にそう言うと、後ろを振り返りそのまま透明になって消えていった。


 ─────。
 こうして、彼女とその祖父を襲った敵は去った。

 侍がこちらへ向かって歩いてくる。
 先程と同じ様な光景を思い出す。でも今度の男は殺気も敵意も存在しない。
 そして彼はわたしの前まで来ると、そのままわたしを通り過ぎ───お爺様の遺体前に正座した。
「………え?」
 侍は首に掛けていた大数珠を外し、目を閉じ念仏を唱え始める。
 あ───、そう言えば本多忠勝が戦場でも大数珠を持ち歩いていたのは……戦で倒した死者を弔うためだったっけ───?

「~~~~~」
 真剣な表情で彼女の祖父を弔う為の念仏を唱えるランサー。

 その彼の姿に、何故か、今まで我慢していたモノが一滴だけ溢れて───。


 ────わたしはそのまま、眠るように意識を手放してしまっていた。














──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー先生!第二回

Fくん「おーっと早くも二人目の犠牲者が出てしまいましたねえ。どうでしょうか解説のエルメロイさん?」
V教授「いやいやいや。だからおかしいだろう絶対。まだプロローグだぞ?
    ようやく聖杯戦争が開幕したのに既に二人も死んでいるなんて作者は本気か?正気かなのか奴は?」
Gさん「ほっほっほっ。綾香よ頑張るのじゃ!お前なら出来るはずじゃー」
V「綾香爺さんもまだ呼ばれていないのに出てくるな」
G「最近の若者は年寄りに冷たいのう……綾香じゃったら笑顔で構ってくれるのに。
  まぁ若干笑顔が固い気がせんこともないがの、何故じゃろう?」
F「それ普通に嫌がられてるんじゃないですかねー?」
G「な、なんじゃと?爺ショック……もう駄目じゃ綾香に嫌われるなんて、死のうorz」
F「もう死んだじゃないですか。ところでお爺さんは正直なんだったんですか?旧Fateには影も形も無いんですが」
G「いやまだ死んどらんはずじゃ!きっと次の綾香の場面で実は儂はなんとか無事で~な事になってて、
  その後は儂と綾香の敵共を千切っては投げ千切って投げの大活躍がっ!綾香~!爺様とコンビを組まんかのう?」
V「登場していきなり死んだからな。トマスタァに続いて即死キャラ二人目だ」
T「俺よりも出番が多かったがな……おい極一部に俺のファンが居るらしいんだがこのトマスタァ様が活躍する話が見たいそうだ。
  今すぐ何とかしろ。あ、ちなみに注文を付けておくが俺は戦闘とかはしたくない。疲れず格好良く活躍する話を用意しろ」
V「いい根性してるなおまえ。まあ多少の気持ちは判らんでもないからミニシナリオを用意しておいた。頑張って来くるといい」
T「え?本当にか?」
G「嘘じゃ!そんな軟弱者よりも儂の話を作った方が絶対良い筈じゃ!?」
V「ほら嘘だと思うなら確認しろこれが原稿だ。トマスタァはこの場所に行けばいい」
F「うわシナリオ本当にある……本気ですか先生?!」
T「………ふ、ふふふ、ははははははは!流石は俺だFate本編のキャラなだけはある。
  では行ってくるお前も見所があるようだなエルメロイはっはーじゃあな爺さん!その他モブども!」
F「良いんですか先生?」
G「そうじゃそうじゃ!あんな奴の話よりむしろ儂と綾香の仲睦まじい話の方がええに決まっとるわ。良いのかお主達は!」
V「構わん。どうせオンエアされん」
F「へ?あーーーー!しかもこの原稿に書いてある場所って魔術協会日本秋葉原支部とか書いてるじゃないですか!
  先生はトマスタァさんをなんてとこに送り込んでいるんですかっ!!?」
V「フフこの間マッケンジー夫妻の所へ行った後、秋葉原支部に研究に行ってきた。相変らずニホンは最悪だがあの街だけは素晴しい……。
  時計塔に申請して魔術協会秋葉原支部に続き日本橋支部も作りたいところだ」
G「よっぽどお主の方がいい根性しとるわい……」


~登場人物について~

F「でもう一度訊きますけどお爺さんはなんなんだったんですか?元ネタになるようなものが影も形もないんですけど」
G「うむ。説明しよう。皆がご存知の通り元々沙条綾香はキャラマテに出てきた旧Fateの主人公じゃ。
  本来ならキャラマテに一緒に名が出た外道牧師と同じ様にそのまま出したかったのだが
  設定を考えるとどうしてもそのままでは登場させられなかったんじゃ」
F「なんでですか?」
G「まず綾香の立ち位置は衛宮士郎に完璧にシフトしてしまっておる。そしておまけに冬木には遠坂と間桐以外の魔術師はおらん。
  となると市外から連れて来なければいかんかったわけじゃがいかせん綾香には七階位、要するにぺーぺーの新米魔術師という設定があった」
F「あ~~。えと、つまり?」
V「要するに半人前の沙条綾香を出来るだけ自然な流れで聖杯戦争に混ぜる為に
  彼女を冬木に連れて来てくれる一人前の魔術師。と言う役割がどうしても必要だったと言う事だ。それが───」
G「それが儂と言う訳じゃな。綾香を冬木に導き出来るだけ自然に聖杯戦争の渦中に放り込む役目が済んだため退場したわけじゃ。
  ……ん?ちょちょっと待て儂は本当に死んだのか!?あれは次回の為のフラグではないのか!?」
F「何のために忠勝さんが念仏唱えてくれたと思ってるんですか。早く成仏してください」
V「流石に初の外部魔術師が参加する二次戦争でド新米は混ぜ難いからな。自然に混ぜる理由は無い事も無いんだろうが思いつかなかった。
  おまけに沙条は元から冬木に居ましたと言うのも不自然だ。そもそも冬木では沙条の痕跡は一切無いわけだからな。
  その為の仕方ない措置だった。あまり入れたくは無かったがな」
G「あ~あ~爺蔑視発言じゃーダメット先生に言い付けるぞい」
F「そもそもFateASのキャラ造詣ってどうなってるんですか?」
V「特定のキャラ以外は全員ベースがあるらしい。
  まずベーオウルフ、ローラン、ラメセス二世、本多忠勝、ヘイドレクは伝承の性格をベースしてに作られている。
  ただ極端に伝承の少なかった安陽王や全く謎なローゼンは完全にオリジナルだ。
  ローゼンは元修道士と言う設定からああ言った穏やかなキャラになり、安陽王は他鯖との区別をつける為にオッサン口調化した」
F「そう言えば安陽王のオッサン化の原因って安陽王を調べてたときに見つけたサイトでたまたまオッサン言葉で喋ってたからとか言うあり得ない理由からでしたよね?」
V「……らしいな。だがまあ実際は安陽王はオッサンであったのは間違いないと思うぞ。
  何せ結婚出来る年の娘持ちだからなそれなりの年ではある筈だ。アンの絵が妙に若々しいからギャップがあるが」
G「で肝心のマスターの方は?」
V「マスターの方は実際のところは本編キャラの連中と基本的にはそう変わらん」
G「じゃろうな。綾香は旧版凛、牧師は旧版言峰、雨生はマジカル龍之介、メイド達はセラ、をコンセプトに性格付けしておるのじゃろう?」
V「ああ。本編キャラの先祖なんだから本編のキャラと何処か似通ってないと駄目だろうという考えかららしい。理解できん」
F「そうですか?まあソフィアリさんとかは御貴族様はあんな感じの性格で良いだろうとか適当に決められてましたけど。
  あとアインツベルンはイリヤやアイリが特別なんであって普通のホムンクルスは無感情が良いとか本編キャラを立ててるのか自分の好みなのか良く判らないですけど」
V「遠坂は時臣と凛を足して2で割ったパーフェクトトッキーとかで良いよねなんて決め方だったからな」
F「ああ~。だから遠坂さんはベーオウルフさんの話をちゃんと信じてくれたんですね。時臣さんだけがベースなら絶対ああはならない」
V「一番酷いのは間桐だな。慎二と雁夜と鶴夜を足して割らない超合体をしてスーパー間桐人!とか言って喜んでたくらいだ」
F「お、お前間桐じゃないのか?…違うな、俺はスーパーマトウだ。スーパーマトウ?なんだそれは!?
  知るか後はテメーで勝手に考えやがれ。ぶるぅぅぅああぁぁ自分で言い出しといてそりゃないぜ超ベジータ。とかやって喜んでましたからね」
G「阿保じゃ、今時珍しいほどの阿保じゃ。それでは諸君また次回でじゃ!」
V「フラット、次回に老人の幽霊が出ないように塩をまいておけ」
F「はーい。パッパ~っと」

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最終更新:2014年11月22日 18:46