最初の使者 ◆OSPfO9RMfA


今日の
お昼ご飯は
配点(100ptの菓子パン)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄





 本多・正純は極貧だ。
 悲しいまでに極貧だ。
 故に、今日のお昼ご飯は100ptの菓子パン一個のみである。
 100ptだ。120ptではない。
 空を見上げる。漂う雲が、菓子パンに見えてくる。

「……いかんいかん」

 正純は首を振って気を引き締める。
 一緒に昼食を食べようと誘ってくる友人を振り払ってまで屋上まで来たのだ。
 周りに人がいないことを確認すると、通神帯《ネット》を使用する。
 即座にライダーのサーヴァント、少佐が出た。

●副会長:『私だ。少佐、通達は聞いたか?』
●戦争狂:『あぁ、聞いたとも。教会でのヘルプ対応、残数28人、B-4での重大なルール違反、違反行為“この冬木の街の日常を著しく脅かすこととなる場合”の徹底。なんともまぁ、ずぼらでマヌケな対応だ』

 少佐が人を煽り、人を食ったような口調で言うのはいつものことだ。しかし、彼は過小評価も過大評価もしたりしない。故に、その理由が気になった。

●副会長:『と、言うと?』
●戦争狂:『B-4で表向きに何か異常があったとは聞いていない。そして、彼女らルーラーも具体的に事件や犯人を突き止められないのだろう。あんなのはただのハッタリだ。児戯にも劣る。案外、出し抜くのは簡単かも知れないぞ?』
●副会長:『なるほど』

 正純もあの通達の不自然さは感じていた。ルール違反があったのなら、忠告などせずさっさと引導を渡せば良いだけである。それを全体放送の通達に混ぜて言うのは、彼女らの状況が不利な証拠だ。
 彼女らのポーカーフェイスなどの交渉能力、証拠を探すための捜査能力はそう高くない。つまり、交渉の場を作れさえすれば、こちらがアドバンテージを得たまま進められる可能性もある、ということだ。

●戦争狂:『もっとも、あまりにも稚拙すぎて罠じゃないかとは思うがね』
●副会長:『ですよねー』

 まぁ、無理もない。

●副会長:『他に何か進展はあったか?』
●戦争狂:『それならもう一つある。新都のB-10地区で暴行事件があった。ジナコと名乗る令呪を刻んだデブ女が、我が宿敵、アーカードの名を呼んでいた』
●副会長:『アーカード……!』

 その名は正純にも聞き覚えがあった。
 少佐から聞いた生前の行いに、何度もその名を連ねていた。

●戦争狂:『そう。我が宿敵、アーカード。彼がこの『方舟』にいる可能性が極めて高いと言うことだ』

 少佐のその語りには、強い熱が籠もっていると感じた。
 が、はたと思う。
 彼は正純に言った。



「お嬢さん、私は私が望んだ戦争をやりきった。
 結果はムーンセルから与えられたデータを見るに、私は我が宿敵を討ち漏らしたようだが、それもまた戦争だ。
 私は私の全てを賭けて私の宿敵たちとの戦争をやりきった。
 あの時ああしていればだとか、もう一度できさえすればなど、それは敗北主義者たちの戯言に過ぎない。
 あれは最高に良い戦争だった」



 ――では、再び宿敵と相まみえる機会を、少佐は喜ぶだろうか?

●副会長:『少佐、アーカードを倒すことは可能か?』
●戦争狂:『ふむ? 珍しいことだね。君が戦争をしたがるなんて。まぁいい、答えてあげよう。正攻法では無理だ。私は宿敵を倒すために50年間考えてきた。30年ほど宿敵を封印することはできたが、それもたった30年で破られた。同じ策は通用しまい。今の私には正攻法で宿敵に勝つ術はない』
●副会長:『正攻法ではない方法とは?』
●戦争狂:『ここでは宿敵もサーヴァント、いやいやマスターかもしれないが、どちらにせよ、その片方を殺せば宿敵も死ぬ。この手段であれば宿敵を滅ぼすことも不可能では無いだろう。あるいはサーヴァントなら、魔力が尽きれば消滅する。そうすれば宿敵の再生能力も働かないだろう』

 要するに、基本的には勝てないと言うことだ。
 アーカードを存在消滅の窮地にまで追い込んだ少佐が言うのだ。間違いないだろう。

●副会長:『では、アーカードを味方に引き入れることは可能か?』
●戦争狂:『ふむ。個人的にはまっぴらゴメンだが、奴は脳筋で煽り耐性が無くてだな。闘争のニンジンを餌に吊して誘導することは、駄馬を教育するより容易い。聖杯にけしかけることも十分可能だろう』
●副会長:『なるほど』

 ほんの少しだけ思考し、結論を見いだす。

●副会長:『少佐。マスターとして命ず。アーカードとの交戦は必ず回避せよ。備蓄に乏しい今、令呪を使うことはないが、それに匹敵する命令だと認識して欲しい』
●戦争狂:『……わかった。マスターの命なら仕方ない。宿敵との交戦はしないことにしよう』

 通神帯《ネット》越しで少佐がどのような表情をしたのかは分からない。
 だが、これで良かったんだと、正純は思う。

 少佐は生前に最高の戦争を堪能したのだ。
 こんな場末のちゃちな戦争で、その余韻をかき消す必要は無いだろう。

 だが、少佐には宿敵を前に闘わないという選択肢を選ぶことは出来ない。
 なら、マスターたる正純が命じなければならないじゃないか。

●戦争狂:『しかし、武蔵副会長。聖杯と戦争すると啖呵を切ったはいいが、我々はまだ何も把握していない。宿敵を聖杯に当てるにも、聖杯と戦争する術を私達はまだ持ち得ていない』
●副会長:『耳が痛いが、全く持ってその通りだ……地道に情報を集めていくしかないが』
●戦争狂:『うむ。ところで、午後にシャア候補の後援会へ赴く予定だったな』

 そうだ。この通信を終えた後、シャア候補の演説を確認しなければならない。

●戦争狂:『だが、後援会の開始にはまだかなり時間がある。そこで、その前に私が交渉しに赴きたいのだが、どうかね?』
●副会長:『少佐が、か』

 安心して送り出せる、とは言い難い。
 何故なら少佐は戦争狂なのだ。それだけで不安になるには十分だ。

●戦争狂:『不安なのはお互い様ではないかな?』
●副会長:『……まぁ、不本意ながら、な』

 しかし、不本意ながら戦争にしてしまう交渉をしてきた身としては、否定しにくい。
 少佐も正純の交渉に不安を持っているだろう。

●副会長:『わかった。無難にやってくれ』
●戦争狂:『はは、善処しよう』

 その言葉を最後に通神帯《ネット》を切ろうとする。

●戦争狂:『あぁ、そうそう。武蔵副会長、言い忘れた事があった』
●副会長:『ん、少佐にも言い忘れることがあったのか。一体何だ?』
●戦争狂:『ありがとう』

「ふぇっ!?」

 思わず変な声が出てしまった。
 通神帯《ネット》を確認すると、既に接続は切れていた。
 結局、何に対する感謝かもわからぬままだ。

 だが時間は迫っている。
 腹の中に菓子パンを放り込むと、情報室に向かった。



【C-3/月海原学園/一日目 午後】

【本多・正純@境界線上のホライゾン】
[状態]まだ空腹
[令呪]残り三画
[装備]学生服、ツキノワ
[道具]学生鞄、各種学業用品
[所持金]さらに極貧
[思考・状況]
基本行動方針:他参加者と交渉することで聖杯戦争を解釈し、聖杯とも交渉し、場合によっては聖杯と戦争し、失われようとする命を救う。
1.シャア候補との交渉に備えて彼の過去の演説に当たるなどして準備する。
2.マスターを捜索し、交渉を行う。その為の情報収集も同時に行う。
3.聖杯戦争についての情報を集める。
4.可能ならば、魔力不足を解決する方法も探したい。
5.小等部を無断欠席中の遠坂凛の家に連絡くらい入れるのもありか。

※少佐から送られてきた資料データである程度の目立つ事件は把握しています。
※武蔵住民かつとして、少女(雷)に朧気ながら武蔵(戦艦及び統括する自動人形)に近いものを感じ取っています。
※アーカードがこの『方舟』内に居る可能性が極めて高いと知りました。






 政治家シャア・アズナブルの講演会は、C-6のホテルのワンフロアを借りて行われる。
 時間は19時~21時の2時間。
 前半の30分にシャアが講演し、残りの時間は立食式の食事が行われる。
 勿論、ただ食べるだけではない。そこで立ち話という会合が行われ、その積み重ねにより、後援者との信頼を深めていくのだ。

 そしてそれは表舞台の話。
 17時~19時まで支援者による準備が行われ、21時~23時まで後片付けが行われる。
 さらに言えば、支援者はC-5にある事務所にて13時~16時半まで準備に追われている。

 現在の時刻は13時過ぎ。
 昼食を済ませたシャアは事務所に向かった。
 本来のスケジュールでは、シャアが事務所に行くのは15時であり、先方もそのつもりで準備している。
 意味も無く早く来ても、支援者達の仕事の邪魔になるだけだ。

 しかし、聖杯戦争が始まった今では、そうは言ってられなかった。
 事務所に入ると応接室を借り、ある人物を呼び寄せる。

「(まったく、ここで彼と出会うことになるとはな……)」

 そう思いにふけるのもつかの間、すぐにノックが聞こえ、一人の青年が扉から入ってくる。

「こんなに早く来てどうしたんだい、シャア。二時間後に来る予定じゃなかったか。みんなが慌てていたぞ」
「すまない、ガルマ。用を思い出してしまってな」

 ガルマ・ザビ。
 シャアのただ一人の友人。そしてシャアが謀殺した男でもある。
 12年前の一年戦争の最中。シャアは復讐の念にかられていた。ガルマはシャアの父を暗殺したザビ家の四男であり、仇だった。
 シャアはガルマを謀殺した後、ザビ家長女も殺害。他のザビ家の人間も戦死し、復讐は完遂に遂げた。

 そして今、目の前にガルマがいる。
 彼は12年前と変わらず20歳のままだ。
 今ここにいるガルマとはNPC時代からの付き合いで、今日もシャアの講演会をサポートしてくれる。
 20歳のガルマと33歳のシャア。そのギャップがシャアが記憶を取り戻す要因の一つになったのは、ある種の皮肉だと感じていた。

「ところで、君に頼みがある。良いだろうか?」
「水くさいな、親友じゃないか。何でも言ってくれ」
「(親友、か……)」

 ガルマのその友情を利用して、ガルマを殺めたことに罪悪感を覚える。
 当時は復讐することに必死だった。ガルマを殺めたのはなんてことはない、殺しやすかっただけだった。他人を疑うことを知らないお坊ちゃんで、だがシャアの友人だった。

 復讐とは儀式だ。生きてる者が次に進むためのスタートラインでしかない。
 故に、彼を殺したことに罪悪感はあるものの、後悔はない。
 しかし、彼の友情を利用して謀殺した上で、改めて友情を利用する様は醜いとは思う。
 そんな良心の呵責を押し殺せるようになったのは、果たして成長と言えるのだろうか。

「これから尋ねることは、他言無用で頼みたい」
「わかった」

 ガルマは迷うことなく首を縦に振る。

「まず、聖杯戦争について知らないだろうか?」
「聖杯戦争? なんだい、それは? 神話か何かか?」
「いや、知らないならそれでいい」

 次に袖を捲り上げ、右の二の腕に刻まれた令呪を見せる。アルファベットのAのマークのような、アズナブルのイメージマークを模した形だ。

「これについて、どう思う?」
「酷い傷じゃないか――いや、これは痣? 刺青? それとも蛍光塗料か? どうしたんだ、これは?」
「いや、大丈夫だ。問題はない」

 シャアはそれから、『方舟』、ゴフェルの木片、サーヴァント、英霊などについてもガルマに尋ねる。
 ガルマは一貫して、“知らない”“わからない”と答えた。

「すまない。君が今、何かとんでもないことに巻き込まれていることはわかった。でも、どうも君の力になれそうに無い」
「いや、そんなことはない。君が“知らない”と言うのなら、他の誰に聞いてもわからないだろう。それは一つの収穫だ。ありがとう」

 しょぼくれるガルマの肩を叩き、右手を取って握手をする。

「むしろ忙しい中、時間を取らせて悪かった。先ほど尋ねたことについては、忘れてくれて構わない」
「それに、他言無用で、だろう? 分かっているさ」

 ガルマは笑って返すと、時計を確認する。彼にも仕事があるのだ。

「それじゃあ失礼する。まだそこで支度をしているから、何かあったら言ってくれ。出来ることならいくらでも力を貸すよ」
「それは心強い。また頼むことになるかもしれない。その時は頼む」
「ああ」

 ガルマは爽やかな笑みを向けると、応接室から出て行った。

『マスター、今の彼って……』
『あぁ、間違いない。NPCだ。もしくは予選落ちしたマスターかもしれないが、少なくとも、今残っている28人のマスターの一人では無いだろう』

 念話で話し掛けてきたアーチャーのサーヴァント、雷に答える。
 ガルマと会話している最中も、彼女は霊体化したままずっと彼の側に付き添っていた。ガルマはそれに全く気付く素振りを見せなかった。

『でも、質問が多すぎたんじゃないかしら』
『いや、私は彼がNPCだと思ってたから、先のような質問をした』
『そうなの? でもどうして?』
『NPCが聖杯戦争について、余りにも無知すぎる』

 先ほどのガルマとの会話を思い出す。彼が聖杯戦争について知っていることは、何一つ無かった。

『この街は常に戦場となる危険性を孕んでいる。地獄と化す可能性がある。だと言うのに、NPCはその危機感がまるでない』
『確かにそうね』
『そして私達、聖杯戦争の参加者は、これら無知なNPCを如何に攻撃せずに、参加者のみを攻撃することを強いられる……妙だと思わないか?』
『そう言われると……そうね』
『何故、彼らNPCがこの戦場に留まり続けているのか。留まり続けなければならないのか。『方舟』は私達に何を求めているのか』
『……NPCの彼らを救いたい、と思ってるの?』
『……わからない。けど、二度も死なせたくない相手なら居る』
『なら、頑張らなきゃ、ね。大丈夫、私に任せなさい』
『頼む。そして、ありがとう』

 やはり、雷との会話は心が安らぐ。つい、自然と微笑んでしまう。
 シャアは念話での会話を終え、立ち上がろうとする。
 しかし、それと同時に扉がノックされる。
 座り直して入室を許可すると、怪訝な顔をしたガルマが入ってきた。

「シャア、面会人が来ているのだが」
「面会? 誰だ?」
「私の知らない人物だ。それが、『ライダーの使い』と言えば分かる、としか」






 シャアによる講演が行われるC-6のホテルのスイートルーム。そこにライダーのサーヴァント、少佐は居た。

「聖杯戦争――戦争と名が付いているが、これでは全く『戦争』とは言い難い」

 少佐は椅子に座りながら、ひとりごとを言う。

「戦争と言えどもルールは存在する。とは言え、所詮公正に裁く審判が居ないルールでしかない。大いに破るのもまた戦争だ」

 戦争のルール、簡単に言えば、非戦闘員や捕虜への攻撃の禁止、非戦闘員に偽装した軍事行動、拷問や非人道的処遇の禁止、無差別な破壊や殺戮の禁止などである。
 これらを犯せば、戦後に戦争犯罪として極刑も免れない。
 もっとも、裁かれるのは戦後であり、極刑まででしかない。
 今この瞬間殺したり殺されたりする戦場で、後で死ぬかもしれないだなんて律儀にルールを守るだなんて、滑稽とすら感じる。
 少佐は戦前、平然とこれらの非人道的行為を網羅するかのごとくやってきた。

「だがコレは何だ? 絶対的な権限を持つ裁定者が居て、非戦闘員に対する攻撃を禁止、違反した者にはその場で罰を与える。その割には参加者は便衣兵さながら非戦闘員に紛れ込み、例え降伏して捕虜になったとしても殺害を推奨される。まるで滅茶苦茶だ」

 不平不満を言いながら、万年筆を紙の上で踊らせる。
 しかしながら、この聖杯戦争は普通の戦争ではない。
 ならば、何故違うのかと踏み込んでいけば、聖杯戦争への解答が得られるのではないだろうか。
 だがまだ情報が足りない。もっと集めなくてはならないと実感する。

 少佐は紙に文字を記し終えると、封筒に封をする。

「少佐ー、頼まれたもの、買ってきたよー」

 不意に、部屋の入り口から一人の少年の声がする。
 扉はノックも開いた様子もない。先ほどまで少佐以外誰もいなかったこの部屋に、彼は唐突に現れた。

「ここではライダーと呼びなさい、シュレディンガー准尉」
「へっへ、ごめんなさーい」

 彼の名はシュレディンガー准尉。猫耳軍服の少年。少佐の宝具『戦鬼の徒(ヴォアウルフ)』により召喚されたサーヴァント。
 『どこにでもいて、どこにもいない』。
 それが彼の持つ特殊な能力で、彼が自分自身を認識できる限りどこにでも存在できる。
 生前、対アーカードへの最終兵器であった。

 シュレディンガー准尉は二つの物を少佐に渡す。
 一つは札束。一つは何かが入った紙袋。

 少佐はマスターの正純とは違い、大金を持っている。
 何故か。
 その秘密は、彼の宝具『最後の大隊(ミレニアム)』にある。

 『最後の大隊(ミレニアム)』は少佐の固有結界。燃えるロンドンを覆い尽くす『戦鬼の徒』を含んだ1000人の吸血鬼、さらには飛行船などを全て自らのサーヴァントとして召喚する。

 ――飛行船などを全て

 そう、潤沢の資金を積んだ飛行船をも召喚することが出来るのだ。
 もっとも、実際に召喚するには魔力も準備も何もかも足りない。
 今できる事と言えば、手の平サイズの固有結界に片手を突っ込んで、金塊をもぎ取ってくることぐらいだ。
 それでもかなりの魔力を消費し、その埋め合わせにルームサービスのスパゲティを五人前平らげてしまった。

 そして金塊のままでは清算ができない。
 シュレディンガー准尉は召喚されると直ぐに、換金しに走らされた。

「それで、僕を呼んだの、まさかこんな使いっぱしりじゃないよねー?」
「はっはっは、まさかまさか。もっと大事な任務だよ」

 少佐はそう言って、先ほど書き上げた一通の封筒を手にする。

「これをシャア・アズナブル氏に手渡しするのだ」
「やっぱり使いっぱしりじゃないですか、やだー」
「つべこべ言わず頑張ってくれたまえ、准尉。とても大事な任務なのだよ」
「しかたないなー。わかったよわかったよ。じゃーねー」

 シュレディンガーは手紙を手にすると、瞬きする間にその場から居なくなる。

「やれやれ。さて、私は頼んだ物を処理するとしよう」

 少佐はシュレディンガーが持ってきたもう一つの物、紙袋を空けた。

 ホットドッグ。フライドポテト。コーラ。
 ファーストフードのテイクアウトだ。それも一人前ではない。三人前だ。
 ルームサービスのスパゲッティはもう食べ飽きてしまった。

「しかし、彼一人召喚するのも大変だ。何らかの方法で魔力を供給することも考えないといけないね。その為にドグを呼んで、するとまた魔力が……やれやれ」

 ホットドッグに齧り付く。これも大事な栄養補給だ。食べないわけにはいかなかった。






「『ライダーの使い』か」
「あぁ、そう言えば伝わると言ってる。どうする?」
「ふむ」

 ガルマの言葉に、シャアも怪訝な表情をする。
 罠だろうか。
 赤いバーサーカーの一件で、注意深くなっているのは自覚している。だが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。逃げ回っているだけでは得られるものも得られないだろう。

「入れてくれ」
「わかった」

 念のため、雷は実体化させておく。
 それから数分と待たず、一人の少年が応接室に入ってくる。
 猫耳に軍服の少年。これを怪しむなと言う方が無理がある。
 彼を見ると、パラメーターが見えた。

「僕はシュレディンガー。階級は准尉。ライダーの特使として来たよ。よろしくー」
「よろしく」

 まるで猫のような、身分や立場を考えない振る舞いだな、とシャアは思う。
 それを咎めることなく、握手は交わさずに挨拶だけを交わす。

「君が『ライダーの使い』なのか? パラメーターが見えるようだが」
「それは僕がライダーの宝具で呼ばれたサーヴァントだからじゃないかなー」
「ふむ」

 サーヴァントがサーヴァントを呼ぶ。そう言うこともあるのか。
 言われてみれば、シュレディンガーから感じるソレの気配は、雷から感じるソレと比べると、今にもかき消えそうなほど薄く感じる。

「それで、どういった用事だろうか?」
「ライダーより、これを渡すように言われたんだよね」
「あ、私が受け取るわ」

 シュレディンガーが取り出した手紙を、雷が横から奪うように受け取る。確かにこれが罠でないとは言い切れない。ありがたいサポートだった。

「えっと、読むわね」

『シャア・アズナブル候補、その側にいる少女へ。
 諸君。私はライダーとして現界しているサーヴァントだ。
 一度、諸君らと話がしたい。
 私はシャア・アズナブル候補が講演会するホテルに一室設けている。そこで会話をするのも良し。
 私が場所を指定するのが気に入らなければ、諸君らが指定した場所に私が行くのも良し。
 電話で会話するのも良し。
 シュレディンガーを通じて会話するのも良し。
 とにかく私は君らと話がしたい。快い返事を待っている』

「なるほど、対話を望んでいる、か。二、三点、質問があるが良いだろうか?」
「いいよ。答えられることならね」

 快諾するシュレディンガーに、シャアは質問をぶつける。

「一つ、これはライダー独自の判断だろうか? マスターの許可は得てるのだろうか」
「んーっと、ちょっと待ってね」

 数十秒の沈黙。
 シュレディンガーは目線を空に泳がせ、頷き、何者かとコンタクトを取っているような仕草を取った。

「マスターはシャア候補の講演会に出るみたいだよー。で、ライダーがその前に一度話をしてみたいって。マスターの許可も出てるらしいよ」
「なるほど。二つ目、これは今浮かんだ疑問でもあるのだが、文面にある『シュレディンガーを通じて』と言うのは?」
「僕はライダーと念話できるから、僕を仲介して、と言うことだろうねー。今もライダーに聞いたけど。でも面倒だからこれは嫌かなぁ」
「ふむ、納得した」

 レスポンスは非常に遅くなるが、一応話は出来ると言うことか。
 シュレディンガー准尉の性格からしても、手紙の最後に書いてあることからしても、できれば使いたくない手段なのだろう。

「三つ目、何故私達がマスターだと思った?」
「んー、もっかい待ってね」

 再び、しばしの沈黙。

「そのまま伝えるよ。『政治家であるシャア候補が、銃撃に出くわす。それは非常に目立つ出来事だ。そして、聖杯戦争が始まっていることを考えるに、参加者の交戦と考えるのが自然だ。あとは直感だよ』。だってさ」
「特定するには至らず、直接確認しに赴いた。そう言うことかな?」
「たぶんそうじゃないかなー」

 なるほど、だから『使い』を寄せたのか。
 ライダーは意外と戦闘が苦手なのかもしれないな、などと計算する。

「四つめ、何故私達の場所が分かった?」
「僕は『どこにもいてどこにもいない』んだよ。だからあなた達の所にも来れたんだ」
「ふむ……そう言う能力がある、という解釈でいいのかな?」
「そだよ」

 わかるようなわからないような。
 何とも煮え切らないが、自身のニュータイプ能力も他人に説明しづらい力だ。そういうものだと納得するしかないだろう。
 それに、これは『逃亡しても逃げ切ることが出来ないのではないか』と考える。
 それを直接口に出して尋ねるほど愚直ではないが。

「これが最後の質問になるのだが、何故ライダーは対話を望んでいる?」

 三度目の交信。返事は早く、シュレディンガー准尉は直ぐに答える。

「『そこから先は、対話をしてからにしよう』だってさ」
「そうか」

 何時までもシュレディンガー准尉越しに押し問答をしているわけにもいかない。
 ここまで十分やりとりできた。
 どうするか、決断しなくてはならない。



【C-5/シャアの支援事務所/一日目 午後】

【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工)
[所持金]:父の莫大な遺産あり。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。参考として自分より未来人のマスターがいるのなら会ってみたい。
0.ライダー(少佐)との対話をするか否か決断する。
1.午後に後援会の人間との会合に行き、NPCから何か感じられないか調べる。
2.赤のバーサーカー(デッドプール)を危険視。
3.サーヴァント同士の戦闘での、力不足を痛感。
4.ミカサが気になる。
[備考]
※ミカサをマスターであると認識しました。
※バーサーカー(デッドプール)、『戦鬼の徒(ヴォアウルフ)』(シュレディンガー准尉)のパラメーターを確認しました。
※目立つ存在のため色々噂になっているようです。

【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】
[状態]:健康、魔力充実(中)
[装備]:12.7cm連装砲
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる。
1.シャア・アズナブルを守る。
2.バーサーカー(デッドプール)を危険視。
[備考]
※バーサーカー(デッドプール)、『戦鬼の徒(ヴォアウルフ)』(シュレディンガー准尉)の姿を確認しました。

【シュレディンガー准尉@HELLSING】
[状態]健康
[思考・状況]
0.シャアの決断をライダーに伝える。


【C-6/シャアの後援会が行われるホテルの一室/一日目 午後】

【ライダー(少佐)@HELLSING】
[状態]魔力消費(大)、シュレディンガー准尉の現界維持中
[装備]拳銃
[道具]不明
[所持金]莫大(ただし、そのほとんどは『最後の大隊(ミレニアム)』の飛行船の中)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯と戦争する。
1.シャア候補との交渉に備える。自身としては少女(雷)の方に興味あり。
2.通神帯による情報収集も続ける。
※アーカードが『方舟』の中に居る可能性が高いと思っています。
※正純より『アーカードとの交戦は必ず回避せよ』と命じられています。令呪のような強制性はありませんが、遵守するつもりです。



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081:そして、もう誰にも頼らないのか? 投下順 083:end of hypnosis 「Standing for Defend You」
081:そして、もう誰にも頼らないのか? 時系列順 083:end of hypnosis 「Standing for Defend You」

BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT
070:ソラの政治家達 本田・正純 090:健全ロボダイミダラー 第X話 悲劇! 生徒会副会長の真実!
ライダー(少佐 109:ライク・トイ・ソルジャーズ
シャア・アズナブル&アーチャー(

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最終更新:2014年11月30日 15:43