シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA
蒼い槍騎士が姫を抱え、城に戻る。
その様を、城の屋根に立つ赤黒のアサシンが伺っていた。
アサシンは『悪魔の目玉』をその場に置く。
「動くな。一歩でも動いたら殺す」
『悪魔の目玉』をジゴクめいた瞳で睨み付ける。
実際コワイ。
『悪魔の目玉』は恐怖のあまり、カナシバリのジツに掛かったかのように微動だにしない。
それを見たアサシンは、赤黒の風と化して消えた。
イクサの始まりだ。
◆
遠坂邸から出たクー・フーリンは実体化し、『探索のゲーナス』のルーンを描き始める。
魔力がほぼ枯渇している中、ルーンを使うのは余り好ましくはない。だが、ここに来るまでの警戒はほとんど出来ていない。
五感のみでは把握しきれない、五体が満足でない時だからこそ、ルーンが頼りになる。
ルーンを描き終えようとした――
その時である。
「イヤーッ!」
「ちぃっ!」
投擲されたスリケンを槍でさばき、攻撃が来た方へ構える。
そこには直立不動でお辞儀をした、赤黒いサーヴァントが立っていた。
「ハジメマシテ、ランサー=サン。アサシンです」
「……へっ、不意打ちしてから挨拶とは、ご丁寧じゃねぇか」
クー・フーリンは眼前のアサシンから目を逸らさずに、気配のみで辺りを警戒する。
アサシンと言うことは、近くにマスターが居る可能性も高い。マスターが別行動で屋敷に侵入してくる可能性もあるし、こちらからマスターを狙うという手もある。
だが、それらしき人物はおろか、NPCの気配すらない。
その様子を見て、アサシンは嘲笑う。
「案ずることはない。オヌシはすぐさまジゴクへと行くのだからな」
「ぬかせよ!!」
槍を突く。アサシンはバク転して距離を取ると、スリケンを投擲した。
「イヤーッ!」
「この程度!!」
矢よけの加護をBランク保有しているクー・フーリンにとって、宝具ですらない投擲など当たるはずもない。
容易く槍で弾く。
しかし、アサシンはさらにスリケンを投擲する。
「イヤーッ!」
「馬鹿の一つ覚えか!!」
アサシンはさらにスリケンを投擲する。
容易く槍で弾く。
「イヤーッ!」
「……ちぃっ!!」
アサシンはさらにスリケンを投擲する。
容易く槍で弾く。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
アサシンはさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにスリケンを投擲する。
如何に数で攻めようが、クー・フーリンに当たるはずも無し。その全てを槍によって弾く。
だが、それ故攻勢にも出れなかった。
万全の状態なら投擲をかいくぐり攻撃にも出られただろう。魔力の枯渇がそれを許さず、投擲するスリケンを弾く防戦に追われていた。
「(時間稼ぎか、持久戦か……どちらにせよ、不味い……)」
スリケンを槍で弾きながら、ジリジリと後退する。前方に出るどころか、弾き漏らしさえ出してしまいそうだ。
「(宝具……真名解放するか……!)」
『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』。
因果逆転の呪いにより、“槍が相手の心臓に命中した”という結果の後に“槍を相手に放つ”という原因を導く。
必殺必中。
しかし、その為には発動体勢を整えなければならない。
即ち、アサシンのスリケンを身体に受けながら真名解放することとなる。
魔力が枯渇している現状では、相打ち覚悟の博打。
だが、やらなければジリ貧で負ける。
「(……行くぜ!!)」
覚悟を決め、発動体勢を整える――
――その瞬間をアサシンは待ってた。
「Wasshoi!」
クー・フーリンがスリケンを迎撃するのを止めるのと同時に、アサシンもスリケンの投擲を止め、遠坂邸の壁をぶち破りながら侵入する。
「しまっ――!?」
アサシンを追おうとしたクー・フーリンの太ももにスリケンが刺さる。
素早く抜いて追うが、出遅れた隙は大きい。
「間に合ってくれ……」
念話でマスターの凜に話し掛けるも、応答はない。
脱衣所。クー・フーリンが駆けた先にあったものは――
一糸纏わぬ裸身の凜。
凜の令呪輝く右手の手首を握りしめるアサシン。
そして凜の首筋にはスリケンが突きつけられていた。
「……すまねぇ」
マスターにチェックメイトを突きつけられてしまっては、足掻きの悪いクー・フーリンでもどうしようもない。
「殺すなら俺を殺せ」
否、マスターの為に、全力で足掻く。
槍を投げ捨て、胡座をかく。
カイシャクを受け入れる姿勢だ。
「確かにマスターは消える。だが、痛みは俺が受ける。それでかまわねぇだろ?」
アサシンの眼光が、鋭く光った。
◆
赤黒のアサシン、ニンジャスレイヤーは屋根に登る。
「一歩も動いておらぬな」
もし一歩でも動いていたら、宣言通り殺していただろう。
コワイ。
『悪魔の目玉』を回収すると、早速その目を使う。
マスターたる野原しんのすけは、幼稚園にてNPCのお姉さんにナンパしていた。
元気そうで何よりである。
「Wasshoi!」
赤黒のニンジャは、掛け声と共に幼稚園へと向かった。
◆
時は遡る。
「令呪を一画、貰おう」
マスターの凜を人質に取ったニンジャスレイヤーは、辺りの気配を確認し、邪魔者が居ないことを確認してから言葉を発した。
首筋にスリケンが当てられ、言葉を発するのも躊躇われる凜は、助けを求めるようにクー・フーリンを見つめる。
「いいぜ。どうせチェックメイトなんだ。『自害しろ』だってかまわねぇよ」
皮肉混じりに言うが、それで凜にこれ以上の痛みを背負わせないのなら本望だった。
ニンジャスレイヤーは一拍おいてから、言の葉を紡ぐ。
「高層マンションの足立=サンたる自室にキャスター=サンがいる。奴を殺せ」
ニンジャスレイヤーはキャスター、大魔王バーンと休戦協定を結んだ。
その見返りに『悪魔の目玉』を手に入れた。
『悪魔の目玉』はマスターたるしんのすけを監視し、ニンジャスレイヤーはその情報を得られる。
――だが。
大魔王バーンもまた、しんのすけを監視し、ニンジャスレイヤーを監視しているものと見ていいだろう。
ニンジャスレイヤーに提供されている映像が、現実であるという保証も無い。
『悪魔の目玉』に攻撃能力が無いとも限らない。
大魔王バーンはいつでもしんのすけを殺害できる――その可能性は存在する。
休戦協定も、所詮相手から申し出た口約束に過ぎない。
故に、無防備なマスターの所在と正体を知られた以上、大魔王バーンとそのマスター、足立透は最も早く抹殺すべき存在である。
マスターの名はNPCのみさえから確認を取った。
細かな住所や人相を手早く伝える。
「……わかった」
クー・フーリンは背後関係を問わず、承諾する。
質問できる立場に無いのもあるが、キャスター相手に対魔力スキルのあるランサーで当たる方が効率が良く、さらに自身が戦わないことで漁夫の利を得る。それだけで十分に納得するだけの理由になった。
「だがオヌシの無様な姿では即刻やられるが道理。故に六刻待つ。日が変わるまでに討てねばケジメとしてセプクすべし」
結局自害か。
クー・フーリンの頭にそんな皮肉が浮かんだが、言葉にはしなかった。
ニンジャスレイヤーは凜の喉元からスリケンをどかした。
「ランサー……」
「構わん、やってくれ」
令呪一画とタイムリミット付き自害命令。
それでも、今この場でリタイアするよりは断然マシだった。
不安げな表情をする凜に、クー・フーリンは躊躇うことなく答えた。
「……『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害出来なければ自害せよ』」
凜の右手から令呪が一画消える。ニンジャスレイヤーはそれを確認すると、凜の手首から手を離す。
ニンジャスレイヤーは静かにクー・フーリンの横を通り過ぎ、背を向ける。
「キャスター=サンを殺した後、オヌシを殺す」
赤黒いニンジャは、風となって去っていった。
【B-4/幼稚園/一日目 午前】
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]健康
[令呪]残り三画(腹部に刻まれている)
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無一文、NPCの親に養われている
[思考・状況]
基本行動方針:普通の生活を送る。
1.ニンジャは呼べば来る……
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
【B-4/遠坂邸屋根/一日目 午前】
【アサシン(ニンジャスレイヤー)@ニンジャスレイヤー】
[状態]魔力消耗(小)
[装備]なし
[道具]悪魔の目玉
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生存させる。
1.マスターの無事を確認する。
2.キャスター=サン(大魔王バーン)を優先して殺すべし。
3.キャスター=サン(大魔王バーン)は一端ランサー=サン(クー・フーリン)に任せる。
4.全サーヴァントをスレイする。
[備考]
※足立透&大魔王バーンと休戦協定を結びました。
今の所有効な振りを装っています。
※大魔王バーンがしんのすけとニンジャスレイヤーを監視していると思っています。
※クー・フーリンに大魔王バーンを殺すように命じましたが、余り期待はしていません。
持久戦の為の鉄砲玉でしかなく、場合によっては自らアンブッシュする必要も考えています。
※足立透の名と住所を確認済み。
◆
「畜生、俺のセリフまでとりやがって……」
惨敗だ。完全な惨敗だ。
それでいて生きながらえているのは生き恥に等しい。
だがそれよりも。
人質に取られたマスターを見る。
裸身だと言うのに身体を隠さず、茫然自失としている。
「大丈夫か……!?」
立ち上がろうとしたとき、スイッチが入ったかのごとく、凜はクー・フーリンに抱きついた。
嗚咽を上げながら泣きじゃくるその姿は、年相応の女の子だった。
クー・フーリンは優しく抱きしめると、背中を優しく叩いた。
「ランサー……」
「悪い。俺が――」
「悔しい」
凜がぽつり、と呟く。
「何も出来なかった。負けたのが悔しい」
「……」
「遠坂家の悲願を成し遂げるとか言って、何も出来ずに負けっぱなしなのが悔しい」
「……」
「ランサー」
凜がランサーの瞳を見つめる。
「あぁ」
その瞳は――
「私は何をすればいい?」
年相応の女の子なんてもう何処にも居ない、覚悟と決意を秘めた強い瞳。
「苦しいことも痛いことも、何だって我慢する。だから……」
ならば。
「私に勝利を捧げなさい、ランサー」
サーヴァントとして、男として、クー・フーリンも覚悟を決めなければならない。
「わかった」
【B-4/遠坂邸/1日目 午前】
【遠坂凛@Fate/Zero 】
[状態] 魔力ほぼ枯渇、強い決意
[令呪] 残り二画
[装備] アゾット剣
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。
1.勝利するために何でもする。
[備考]
※鏡子のパラメーターを確認済み。
※ニンジャスレイヤーのパラメーターを確認済み。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。
【クー・フーリン@Fate/stay night 】
[状態] 魔力ほぼ枯渇、右太ももに刺し傷、『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害出来なければ自害せよ』
[装備] 槍
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。
1.凜に勝利を捧げる。
2.出来る限り回復に努めたい。
3.足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。
4.あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。
5.アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。
[備考]
※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。
※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。その手段を取るかは次の書き手に任せます。
最終更新:2014年08月28日 21:19